男尊思考の強い『バイキング』が低迷――坂上忍に「物言える」女性コメンテーター候補を考える
坂上は、女優・斉藤由貴の不倫騒動の際には、「不倫の師匠」と褒め殺しながら、一方で渡辺謙に関して「謙さんほどの人でも、不倫しちゃダメなの?」と発言したことがある。そんな男尊思考の強い『バイキング』をてっとり早く盛り上げるとしたら、新しいレギュラー女性コメンテーターを入れることではないだろうか。ゴリゴリのフェミニストを入れると、坂上やほかの男性陣と完全に対立して収拾がつかなくなり、バラエティーの枠に収まらない。番組を盛り上げつつ、男性とは違う立場から物を言える人。そう考えたときに、頭に浮かぶのが、元お笑い芸人で現在は放送作家をしている野々村友紀子である。
野々村の夫はお笑い芸人・二丁拳銃の川谷修士。川谷の相方、小堀裕之は4児の父であるが、家にカネを入れず、本業のお笑いそっちのけで、音楽活動をしている。そんな小堀に対し、野々村が「弾き語るな」と説教をする姿は、『人生が変わる1分間のイイ話』(日本テレビ系)で繰り返し放送されている。説教は「偉そう」という印象を与え、自分のイメージを落とすことにもなりかねないが、元芸人だけあって、どこかおかしさを含んでいるので、角が立たない。2児の母というポジションもお昼の番組にぴったりだろう。
そして彼女の最大の武器は、「ガツンと物が言える」ことではないだろうか。
芸人の世界は、性別を問わず、先輩後輩という上下関係が厳しいという。二丁拳銃・小堀が野々村の説教を受け入れるのは、番組の企画だからということもあるが、野々村が芸人として先輩であるからだろう。
5月8日に野々村が出演した『今夜くらべてみました』(同)の司会は、フットボールアワー・後藤輝基とチュートリアル・徳井義実で、彼らも野々村の後輩である。SHELLYや指原莉乃も司会者という立場ではあるが、芸歴や年齢から、男性司会者の発言力の方が強くなりやすい。しかし、野々村は男性陣の先輩であるために、強く物が言える。
同番組では、ギャル曽根が、ディレクターである夫とのメールのやりとりを公開。夫が浮気をしていると思い込んでいるギャル曽根は、メールに返事をしない夫に対して、何度もメールを送る。すぐに返事が来なかったことに加え、物の言い方がぶっきらぼうであることから、ますます浮気を疑ってしまうそうだ。後藤は、夫の心情について「仕事中でイライラしている」と説明し、いつもなら、このあたりでオチがつくが、野々村は「心配してる奥さんの気持ちを汲み取ってあげないといけない」とギャル曽根の味方をし、後藤に対しても「(ごめんねと)言えよ」と促すのだ。
徳井に対しても同様で、「洗濯洗剤を買ってきて詰める」といった名もなき家事を、「徳井くんも、やらなあかん」と言う。上下関係がはっきりしているだけに、後藤も徳井も素直に「はい」というしかない。アイドルや女優にはできない芸当だし、かつ視聴者にとって男性司会者が怒られている姿は、新鮮ではないだろうか。
一方で野々村は、女性に対しても、言う時は言う。メールがしつこく感じられたのだろう、ギャル曽根の夫が、会議中の写真とともに「いい加減にしてくれ」という言葉を添えてきた。それでも疑うことをやめず、写真からあれこれ推測を繰り返すギャル曽根に対し、野々村は「なんのトリック暴いてる?」と婉曲にばかばかしさを伝えている。ここで「あんたもしつこい」と直接的な言葉を使わないところに、技を感じる。
90年代の終わりにテレビの世界に、熟女タレントブームが起きて、デヴィ夫人や亡くなった野村沙知代さんなどが重宝されたことがあった。離婚や夫の不倫、借金に悩む女性たちに対し、激しい人生を送ってきたこの時代の熟女たちはオンナを叱った。しかし、現代は野々村のように、男女両方に対して物が言える熟女が求められているのではないだろうか。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。