整形男子アレンもボロボロに!? セラミックやジルコニア、人工歯トラブルの実態をきぬた歯科解説
歯みがき粉「アパガード」CMの「芸能人は歯が命」というキャッチコピーが、かつて大きな話題を呼んだことを覚えているだろうか。このCMは今から20年以上も前のものだが、「歯の印象が、人の見た目に大きな影響を与える」のは、いまや常識となっている。人から見られる職業である芸能人はもちろんのこと、一般人の中にも「見た目の美しい歯を手に入れたい」と、ホワイトニングに力を入れたり、歯列矯正をする人は多く、中には、健康な歯を削って、セラミックなどの人工歯を被せる人も珍しくなくなった。
しかしそんな中、「整形男子」としてメディアに登場するタレント・アレンが、ブログで人工歯のトラブルを告白。アレンは5年前、自身の歯16本を小さく削り、神経を抜き、そこにジルコニアと呼ばれる人工歯を被せたというが、「土台からジルコニアが揺れるようになった」とのこと。差し替えた際に、歯をより綺麗に見せるため、元の前歯を削って、ジルコニアを4mmほど内側に倒したといい、その負荷が原因なのではとつづっている。応急処置として、前歯のジルコニアの後ろ側を少し削ったものの、今度は顎関節症のような症状が出て、アゴには疲労感が、また頭と首にも痛みが走るようになり、「自殺したくなるほど」の心境にまで陥ったという。
アレンのこの告白は、人々に「健康な歯を削るリスク」について、あらためて知らしめることとなったが、果たしてこの事態を、歯科医はどう見るのか。今回、インパクトの強い看板でお馴染みの八王子きぬた歯科院長・きぬた泰和先生に取材を行うと、「アレンさんのトラブルは、実は日常的によくある話なんです」とのこと。歯の美しさを求める人にとっては他人事ではないこのトラブルを解説してもらった。
――アレンさんの人工歯トラブルですが、率直にどのような感想を抱かれましたか。
きぬた泰和先生(以下、きぬた) まず、アレンさんはブログで「神経を抜いた」と書いていましたが、神経を抜くと歯が弱くなるため、そもそも「神経を抜かなければよかったのではないか」という話なんです。しかし神経を抜くと、水や空気が当たって凍みることがなくなるので、歯をより多く切削できる面があります。元の歯を小さく削れば削るほど、人工歯の角度を自由自在にできる、つまり見た目の美しい歯にしやすいのです。これが彼を担当した歯科医の作戦だったのではないでしょうか。気持ちはわかります。
また、彼はジルコニアの人工歯ですが、セラミックの人工歯は、パウダーを焼き付けて重ねていくことで多層構造を作り、よりリアル感のある色にしていくものでして、その場合、元の歯は小さければ小さいほど、色合わせが自由自在となる。ただし、繰り返しますが、彼が被せたのはジルコニアであり、これはセラミックとは違ってパウダーを重ね合わせて色合いを調整する素材ではないんです。恐らく担当した歯科医が、セラミックと同じ要領で神経を抜いて、歯を小さく削ったのではないかと思われます。
――歯科医が、そんなミスをするものなんですか。
きぬた ミスかどうかはわかりませんが、サメの歯のように小さく削るのは、美容歯科系に多いですね。セラミックをきれいに作るための訓練をしているので、「ジルコニアを被せる」という認識がなく、自動的に歯を小さく削ってしまった可能性はあります。また、ジルコニアの歴史が浅いのも、セラミックと同じ要領で削ってしまったことに関係しているかもしれません。ジルコニアが歯科領域に登場したのは、ここ10年くらい。人工ダイアモンドと呼ばれるほど硬い素材で、当初は土台として使用されていました。神経を抜くと歯が弱くなるので、それを補強するために、歯の中に芯を入れて土台を作るんです。被せ物として使われるようになったのはまだ5年くらいで、彼が差し替えたのは、まさに「出始めの頃」だったのでしょう。
――被せ物としてのジルコニアの安全性は、まだ確立されていないんですね。
きぬた ジルコニアであれば、大きく切削する必要はないし、神経を残したままにしてもよかったかな? とは思います。それでも彼の場合、やはり歯の角度を変えるため、神経を抜いて元の歯を小さくしなければならなかったのかもしれません。ちょっとくらい角度を調整するのなら、神経を抜かなくてもよかったはずですが、彼は前歯を内側に4mm倒したと。これって、かなり思い切った数字で、僕がやるとしたら、MAXで1mm。普通は倒したとしても1mm以下です。あくまでも僕の基準ですが。