15年にわたる実父の強姦が黙殺された「栃木実父殺し」から現在――社会に排除される女性と子ども
3月26日、愛知県で実の娘と性交したとして、準強制性交の罪に問われた男性に「無罪」判決が言い渡された。報道によると、被害者である娘は中学2年の頃から性的虐待を受け続け、2017年、当時19歳の時に起訴。裁判長は、性的虐待があったとした上で「性交は意に反するものだった」と認定。一方で「被害者が抵抗不能な状態だったと認定することはできない」として、父親に無罪判決を言い渡したという。
同28日には、静岡県で当時12歳の長女に乱暴したなどとして、強姦と児童買春・ポルノ禁止法違反の罪に問われた男性が強姦の罪のみ「無罪」となった。被告は、17年6月、12歳だった娘と無理やり性交したとして、昨年2月に起訴された。約2年間にわたり、週3回の頻度で娘は性交を強要されたと検察側は主張したが、家族7人暮らしの上、狭小な自宅において「家族がひとりも被害者の声に気付かなかったというのはあまりに不自然、不合理」として、「被害者の証言は信用できない」と無罪判決。
これら事件が相次いで報道されたことで、ネット上には怒りの声や、絶望のコメントが続出。「子どもは一体、誰に助けを求めればいいのだろう」「娘に無理矢理性暴力しても、大量の酒飲ませて酩酊状態にさせて強姦しても、無罪なのは本当にワケがわからない」「この類いのニュースが多くて、ほんと女性の立場の弱さを感じる」「裁判官は、女に生まれて父親に強姦されても『抵抗しなかった』からって無罪にされて納得いくの?」などと、やりきれない思いや疑問があふれ返っている。
かつて、中学2年の少女が15年間にわたって、父親から性暴力を振るわれた上、妊娠、出産、そして父親を殺害という事件があった。家族9人が狭小の借家で生活する中で、父親は娘を犯し続けた。サイゾーウーマンでは、この事件を取り上げ、考察した記事を掲載している。悲しき事件から50年がたった現在、近親相姦や性暴力の状況は何が変わり、変わらないままなのか。再掲するこの機会に、ぜひ読んでいただきたい。
(編集部)
(初出:2013年2月18日)(取材・文/神林広恵)
[第10回]
栃木実父殺し事件(尊属殺法定刑違憲事件)
昭和43年10月5日3人の子持ちの女、浅川サチ(29・仮名)が、父親の政吉(52)を殺害したとして逮捕された。罪名は刑法200条にあった“尊属殺人”である。現在では聞きなれない罪状だが、当時は歴然と存在していた罪だ。名前の通り、自分または配偶者の直系尊属――父母、祖父母、曽祖父母――に対する殺害であり、通常殺人より重い<無期または死刑>という罪が科せられるものだった。今の感覚からは時代錯誤で、人権、平等といった法理念からかけ離れたものだ。しかし家父長制度、家庭という社会的基盤維持、儒教的考えなどから、当時親殺しは重罪とみなされていた。
だがこの父親殺しの背景には、サチに同情すべき事実が存在した。サチと父親の間には長年にわたる近親姦関係の強要、その上での妊娠、出産といったおぞましくも悲しい事実があったのだ。そのためこの事件は「尊属殺の重罰規定は法の下の平等に違反する」と、憲法議論にまで発展していく。