コラム
女のための有名人深読み週報

樹木希林さん、「夫には遺産遺さない」報道……彼女の「一筋縄ではいかない愛し方」を考える

2019/03/28 21:00
仁科友里
『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文藝春秋)

 羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます

<今回の有名人>
「私が死んでも、夫に遺産は遺さない」樹木希林
「女性セブン」(小学館、3月27日号)

 一組の夫婦がいたとする。妻が夫に暴力を振るい、別居。そこで別の男性と交際するようになる(しかし、生活費は夫にもらっている)。妻が夫に内緒で離婚届を出し、離婚は成立した。しかし、夫は裁判を起こし、離婚は無効であると訴え、勝訴した。

 もしこんな話を聞かされたら、多くの人が「暴力を振るうなんてあり得ない」「生活の面倒を見てもらいながら、不貞を働くのはどういうことか」と妻をなじり、夫に離婚を勧めるだろう。それでも離婚しようとしない夫を「そこまで執着するなんて怖い」と見る人もいるかもしれない。

 しかし、これが男女逆だったらどうだろう。つまり、夫が暴力を振るい稼がずとも妻は生活費を出し、夫が不倫をしようとも妻は離婚しない。すると、なんだか懐の深い女になってしまわないだろうか。これは日本に「支えるオンナ、耐えるオンナは美しい」という価値観がそれだけ深く浸透しているからだろう。

 今、日本で一番「支えるオンナ」として扱われているのは、女優・樹木希林さんではないか。昨年の9月に亡くなった樹木希林さんの名言を集めた『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文藝春秋)が売れに売れている。文藝春秋社によると、累計発行部数は100万部となり、平成最後のミリオンセラーとなるようだ。

 20代の頃から老け役をいとわず、第一線で活躍し続けた希林さんだが、気負わず、かといって「老け役なんです」などと自虐することもなく自分を語る希林さんと、恵まれているアピールが反感を買いやすい今の世相がマッチしたのだろうか、「モノを持たない」「求めすぎない」希林さんの生き方に支持が集まっている。成功から生まれる感謝と諦念を同じ量持ち合わせているかのような希林さんの言葉に、私も共感を得る一人だが、希林さんが夫にどれだけ振り回されても、ひたすら無償の愛で支え続けてきたという解釈のされ方には、個人的に腑に落ちないものがある。

 希林さんと、ミュージシャンである夫・内田裕也さんの結婚は、波乱含みだった。結婚してすぐに、内田さんの暴力が始まり、別居。その間、内田さんが女性問題を起こしたり、警察のお世話になったりもしたが、離婚はせずにマスコミに頭を下げ続けた。さらに、内田さんの生活費は希林さんが負担していたという報道もあった。ただ、内田さんがこっそり離婚届を提出したときは、すぐに裁判を起こして、勝訴している。60代になった希林さんが、がんを患い闘病を始めると、1カ月に一度は会い、共にハワイで過ごすような関係に戻ったが、同居することはなかったそうだ。

 晩年、希林さんはバラエティー番組で、はっきり不動産投資の話をするようになる。『ぴったんこカン・カン』(TBS系)では、不動産の出物があると、撮影をほっぽり出しても見に行ってしまったエピソードを暴露されたが、「いつ仕事がなくなるかわからない商売なんだから」と言い返していた。「女性セブン」(小学館)によると、希林さんは都内に8軒もの不動産を所有していたそうだ。物も欲も持つなと話していた希林さんが、不動産を多数所有することは矛盾しているようにも感じるが、内田さんのためと考えると、合点がいくのではないだろうか。

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