上谷さくら弁護士インタビュー

日本は盗み撮りし放題!? 弁護士に聞く、“無法状態”の現実と「盗撮罪」新設の必要性

2019/03/27 15:00
福田晃広/清談社

軽犯罪法は「衣服をつけないでいる場所」の盗撮のみ

 また、スマホでの盗撮は軽犯罪法第1条第23号で定められている「窃視(のぞき)の罪」に該当する可能性があるが、上谷氏によれば、解釈が難しいようだ。「窃視(のぞき)」とは、“通常衣服をつけないでいる場所(自宅、浴場、トイレなど)をひそかにのぞき見ること”と規定されている。

「スマホの画面を見ずに被害者にかざしてシャッターを切る行為が『ひそかにのぞき見た』に当たるのか、専門家の間でも見解の相違があります。高裁では、スマホでの盗撮行為が『のぞき』とされた裁判例がありますが、被害者を救済するために無理な解釈をしたように思っています。そもそも軽犯罪法は昭和23年に制定された法律なので、スマホでの盗撮などはまったく想定されていなかったのです」

 もうひとつ重要なのは、日本では公共の場所(電車や公園のトイレなど)以外での盗撮は、ほとんど処罰されない点。アメリカやカナダなどでは、会社や自宅など、非公的な場所での盗撮も犯罪となっているという。

「迷惑防止条例は『公共の平穏を保持する』ことが目的なため、基本的に私的スペースは範囲外。そして軽犯罪法の場合は、自宅や浴場など『通常衣服をつけないでいる場所』での行為が対象のため、たとえば社長室、ホテルの部屋などでの盗撮には適用されないのが実態なのです」

 さらに、深刻な問題となるのは「プライベートな場での強制性交や、強制わいせつ罪に問われるような場面で盗撮されていたケース」と、上谷氏は指摘する。


■犯人から盗撮動画を没収する法律がない

「レイプなどの性犯罪が行われる際、加害者が犯行場面を盗撮するケースが非常に多くなっています。しかし、撮影された盗撮画像や動画を加害者から取り上げる根拠となる法律がそもそもないため、現状では検察や警察が説得して任意提出させたり所有権放棄させたりしているのです」

 こうしたケースで大きな問題になったのが2010年4月〜13年12月に起きた「宮崎アロママッサージ店強姦等事件」だ。これは、宮崎市のアロママッサージ店を経営する男が、店舗内で複数の女性に対して強姦・強姦未遂・強制わいせつを行った上、その犯行をデジタルビデオカメラで隠し撮りしていた事件。被告人は、法的根拠がないのをいいことに、これらの盗撮動画の所持を強く訴え続けていた。

「この事件は、被告人側が『告訴を取り下げるのであれば、盗撮ビデオを処分する』といった示談交渉をしていたという経緯がありました。そして、昨年6月26日の最高裁判決では『捜査機関に処罰を求めることを断念させ、刑事責任の追及を免れようとしたと認められる』という理由で、ビデオ没収になりました。しかし、今回のケースでは『犯行の発覚を防いだ』点のみに言及しており、例えば『性的に楽しむ』、『被害者との関係継続を強要する』といった目的ではビデオ没収が認められない可能性があります。なので、一般的に動画を回収することを認めたわけではないのです」

つまり、被告人が捜査の妨害をしたという理由が根拠で、今回はたまたま盗撮動画を没収できたということなのだ。


 また、仮に盗撮ビデオを没収したとしても、犯人がどこかにコピーを取っている可能性もある。さらに動画をインターネット上に拡散することを規制する法律としては、リベンジポルノ禁止法があるが、元交際相手に対する復讐を防ぐ目的で作られた法律であることから、それ以外のケースにはあまり適用されていない。つまり、被害者は流出におびえながら生活しなければならないことになる。

 つまり、迷惑防止条例、軽犯罪法、リベンジポルノ法といった3つの法では、現状、盗撮行為、盗撮画像・動画の没収、盗撮物の拡散・販売を罰することができないわけだ。これらを網羅的に取り締まる「盗撮罪」の新設は急務といえるだろう。
(福田晃広/清談社)

最終更新:2019/03/27 15:00
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