池江璃花子選手、堀ちえみさん……有名人から「がん公表」を受けた我々が“すべきでないこと”
言葉というのはとても難しくて、人により感じ方も違うので、これは必ず良い/良くないというのは言い切れないです。しかし、皆さんが多くかけてしまう言葉である「必ず治るよ」などの安易な励ましはあまり適切でないと思います。
がんの患者自身も、そう簡単なものではないという現実を痛いほど知っているので、その安易な励ましは、うれしくは思わなかったり、逆に傷つけさえすることもあります。もちろん患者にもよるとは思いますが、気をつけないといけない言葉でしょう。
逆に「見守っているよ」「困ったことがあったら言ってね」というような、静かに見守っていることを伝える言葉が良い場合もあります。
【Q5】日本でのがん公表が患者にとってプラスになるためには?
【A】「そもそも公表しないことも立派な手段。がんへの理解が進めば……」
そもそもとして、がん患者さんは病気を公表しないといけないわけではありません。とてもプライバシーに関わることですし、日本の現状では多くの誤解や攻撃も受けることですので、公表しないことも立派な手段です。
この点でも、マスコミは病気の公表を称賛するような報道を行うことがあり、問題だと思っています。このような報道が「病気を公表しなければならない」という圧力になってしまうので注意が必要です。
公表自体に伴う現在の問題は、先ほど触れた点です。繰り返しになりますが、日本は病気と過去の行いを結びつける傾向の強い国なので、「がんになったということは、何か過去に悪いことをしたのでは」と発想をする人が多く、そのため、がん患者さんは何か悪い生活習慣をしていたのではと責められることがあります。また、検診の効果を過度に理解している人もいて、検診をサボっていたからだというような批判も、患者が公表しにくくしている点です。
「善意の攻撃」も怖いものです。多くの人が良かれと思って、たくさんの善意からくるアドバイスを押し付けてきます。それを断ると人間関係が悪くなることもあり、効果がないとわかっているものに付き合わされたりということもあるので、とても難しい問題です。
現時点では、がんの公表にはさまざまな問題があるのが事実です。しかし、それも将来変わってもらえればと私は望んでいます。
がんという病気自体、またがん患者さんへの関わり方への理解が進み、善意の攻撃や、病気の誤解からくる攻撃が減れば、がん患者さんも安心して病気を公表できるようになるのではと思います。そして、周囲の人からたくさんの温かいサポートを受けられて、安心してがん治療が進められるようになれば良いなと願っています。
大須賀覚(おおすか・さとる)
がん研究者。筑波大学医学専門学群卒業。医学博士。現在、米国エモリー大学ウィンシップ癌研究所に所属。日本では脳神経外科医として、脳腫瘍患者の手術・治療に従事。一般人に向け、がん治療を解説する活動を積極的に行い、がん患者やその家族はもちろん、多くの人々から支持を受けている。
ツイッター:@SatoruO
ブログ:「がん治療で悩むあなたに贈る言葉 米国在住がん研究者のブログ」