“夢の国”では万引きしても捕まらない――保安員があ然とした、都市伝説を信じる高校生の言い分
「捕まって、どうなったのよ。もしかして逮捕された?」
「本来なら逮捕するところだけど、お店が被害届を出さないでくれたからって、今回だけという約束で家に帰してくれたのよ」
恐らくは、微罪処分として扱われたのでしょう。写真や指紋などは採取されたそうですが、基本調書を取られることはなく、盗んだ商品を返品するだけで済まされたというので、捕まった側からすれば非常にラッキーな展開といえます。
「運がよかったって、言っていいかわからないけど、これを最後にさせないとダメよ。お孫さん、ちゃんと反省してる?」
「誰も歩いていない従業員専用の道を通って、園内の華やかさがまったく感じられない殺風景な事務所に案内されたらしいんだけど、その時、すごく悲しかったんだって。たまたまステージ裏を通った時に、自分の好きなアヒルのキャラクターが歩いているのを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになったって」
自分も知っているルートなので、その情景が目に浮かびます。捕捉された被疑者の心境を知ることは、なかなかないことなので、とても興味深い話に思えました。友人関係にさえ気をつけてくれれば、きっと大丈夫。追加で頼んだケーキを前に、そんな話をしていると、彼女のスマホにLINEがきました。スマホに目を落としてメッセージを確認した彼女が、眉間にしわを寄せながら上目づかいに言います。
「出入禁止になっていないか、孫が心配しているんだけど、また遊びに行っても大丈夫なのかしら?」
「夢の国で悪さをすると、出入禁止になる」という話もよく耳にしますが、私の知る限り、そのような処置が取られることはありませんでした。もちろん、その日は退場していただくことになりますが、以後の入場を拒否される場面を見たことはなかったです。しかし、これも数年前までの話。いまは顔認証システムなど、最新の防犯機器を設置している施設が多いので、その扱いは変わっているかもしれません。
「悪さをしなければ、大丈夫。そう伝えてあげて」
「ありがとう。ほんと、恥ずかしくて仕方ないわよ……」
少しイラつきながらも拙い手つきでメッセージを送る彼女の姿を見た私は、家族って大変だなと、独り身の気楽さを実感しました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう