趣味、処世術、自分を解放するためのツールとして……“装うこと”の自由を示した話題の本『だから私はメイクする』
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。
■『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(劇団雌猫、柏書房)
■概要
オタク女性の浪費の実態をポジティブにあらわにした『浪費図鑑』(小学館)で話題をさらった女性チーム「劇団雌猫」。彼女たちの新作『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)もまたネット上では大きな反響を呼んでいる。化粧やファッションを中心に、エステや整形、矯正下着やダイエットなどさまざまなジャンルの美にこだわりを持つ女性たちが、その思い入れや自身の美意識をつづり、それぞれの「装う理由」をあらわにしていく匿名エッセイ集。
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ナチュラルメイクに一切興味がなく、“作り込まれた顔”にこだわる「あだ名が『叶美香』の女」。普段の仕事着は適度な服装で通し、プライベートで本気を出す「会社では擬態する女」。逆に、仕事場で納得いくまで装うことで自信を持って職場で振る舞う「デパートの販売員だった女」「仕事のために○○する女」。アイドルに「かわいい」と言われるために限定コスメをチェックする「アイドルにモテるために化粧する女」――。
自分のため、仕事のため、愛する“推し”のため……理由は違えど、装うことにこだわりを持つ女性15人が、愛するブランドやお気に入りのサービスを語るエッセイ集『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』は、「装うこと」というフィルターを通して、現代を生きる女性の半生を浮き彫りにする自伝短編集でもある。
メイクやファッションは、良くも悪くも、現代に生きる女性の多くにとって切っても切れない存在だ。だからこそ、オシャレが好きでも嫌いでも、理由について真剣に語り始めれば、知らず知らず社会に向き合う自分のスタンスが浮き彫りになり、その女性の生き方の一片がにじみ出る。
例えば、「痩せたくてしかたがない女」。幼いころからふっくらとした体形で、「かわいい」を感じさせるものが嫌い、「キラキラ、ふわふわしたものは自分には似合わないだろう」と思っていた女性が、あることで感情を爆発させた際に、ふいに「嫌いだと思い込んで自己防衛していた」「私は本当はこういう風になりたかったんだ」と自分の本心に気づく。自分の欲望を無意識に抑えていたのは、ふさがりかけていた人生の傷口を開くことになるかもしれないからだ。それでも、自分を縛る思い込みは自らの手でほどくことができるし、本心に気づけばどんなに傷が痛くても、視界が一気に広がるような感覚を味わえる。一人の人間の変化を鮮やかに捉えた、よくできた短編のようなエッセイになっている。