カルチャー
[サイジョの本棚]
お金の支配されない人生が、仕事を自由にする!? 『仕事にしばられない生き方』が問う人生の本質
2019/01/06 19:00
たとえば、「物腰はちゃんとしてるのに、そろいもそろって、お金がない」若者が集う文化サロン“ガレリア・ウプパ”を「第二の家」としていたイタリア時代。そのサロンで対話や討論の醍醐味を知ったヤマザキ氏は、主宰者が貧しさの中で亡くなったことに触れつつ、「与えられた命と知性を使って、この世界をより深く掘り下げ、知っていく喜び」が最高のぜいたくだと語る。
一方で、『テルマエ・ロマエ』のヒット後、夫がシカゴ大学の客員教授となり、米国で暮らしていた時期については、「はたから見れば、エリート校の研究者として教鞭をとり、タワーマンションの高層階で暮らしているなんて、アメリカン・ドリームそのもの」と語りつつも、そこに喜びはない。彼女自身は仕事を受け過ぎた過労で、夫と息子はそれぞれ厳しい競争にさらされ、家族全員が疲弊していく。経済面で苦労することがなく、どんなに傍から見て成功していたとしても、本人たちが幸せかどうかは全く別の話なのだ。
いくつものエピソードに繰り返し織り込まれているのは、ヤマザキ氏の、“お金は非常に大切なものだが、本当のぜいたくは「お金がすべて」という考えに対抗できる価値観を培うこと”という信念だ。お金への向き合い方に一本筋が通れば、仕事も自分の生き方に添ってくる。達観した潔い彼女の姿勢に、勇気づけられる人も多いだろう。つい近視眼的に「働くこと」だけについて考えて行き詰まりそうな時、本作には、いったん立ち止まって視点を変え、現状を俯瞰させてくれるようなヒントが詰まっている。
(保田夏子)
最終更新:2019/01/06 19:00