ヤクザの人生は「理不尽」の一言——元極妻が読む今年のヤクザ本
これらの労作の中で、ダントツで話題なのは、やはり中野太郎さんの『悲憤』ですね。ヤクザや元ヤクザだけではなく、カタギさんの間でも話題のようです。とにかくいろいろ赤裸々に書かれているので、「有害図書」に指定している組織もあるそうですが、この本を渡されて、「オマエもタマ(命)トってこい(=殺してこい)」と言われるよりは、いいのではないかと思います。
ネタバレにならない程度に感想を書かせていただきますね。
注目されている、五代目山口組のナンバー2だった宅見勝若頭射殺事件については、今まで「ウワサ」になっていたこととほぼ同じでした。事件から20年あまりを経て、ようやく“首謀者”とされていた中野さん本人の口から語られたということに意義があります。『悲憤』というタイトルからもわかるように、ずっと言えずにいたことを言ってしまおうと思われたのでしょう。
出版の経緯については、『ヤクザと東京五輪2020 巨大利権と暴力の抗争』でも触れられています。それによると、中野さんはご自身に関する報道について反論されたかったのだそうです。やはり傘寿を過ぎて思うところはおありだったのですね。
ちなみに不良とは全く関係なさそうな社会学者の宮台真司さんが、「週刊現代」(12月29日号・講談社)の書評欄で『悲憤』を「ギリシャ悲劇のよう」と評されておりました。なるほど、そうきましたか。思えば神話や昔話は、たいてい理不尽ですよね。人間の業というヤツでしょうか。
一方で、『悲憤』で紹介されている中野さんのお若い頃の無茶苦茶ぶりや若い衆とのエピソードは映画にもなりそうで、クスっと笑えるところもあります。ヤクザも切った張ったで24時間ピリピリしているわけではなく、それなりに笑いや涙のある日常を送っていることをわかっていただけると思います。本当に面白いご本でした。
また、今年は「週刊大衆」(双葉社)などで活躍されていた記者の齋藤三雄さんが亡くなられました。私は一度しかお会いしていませんが、亡きオットもお世話になっています。週刊大衆編集部と『山口組分裂「百年の修羅」 “菱の代紋” はなぜ割れたのか!?』(2016年・双葉社)などのご本も出されています。
大衆のほか「週刊アサヒ芸能」(徳間書店)、「週刊実話」(日本ジャーナル出版)、「実話時代」(三和出版)、今はないですが「実話時報」(竹書房)にも書かれていました。実話誌の編集者さんによると、「穏やかな性格で、誰からも悪口を言われない人」だそうで、かなり貴重な存在だったことがわかります。
まだ50代だったそうで、とても残念ですね。この場を借りてお悔やみ申し上げます。