学力優秀な息子が、名門私立に落ちた理由――中学受験の“都市伝説”に翻弄された母の姿
中学受験生の母の間では、こういった真偽不明の“都市伝説”がたくさん飛び交っている。例えば「A学園の受験番号1番は落ちる」であるとか、「受験当日の朝、B学院の坂を走った者は受からない(=先生がチェックをしている)」といったものに代表される。また「シングル家庭は敬遠される」といった「何時代だ?」といった時代錯誤的なものまで流布されることがあるのだ。
最近、筆者が相談されて驚いた事例も紹介したい。清子さんは、娘・笑里ちゃんが中学受験塾に入塾したタイミングで社会復帰を果たした。以前から望んでいた会社に採用されたのだ。
ところが、だんだんと仕事がハードになっていき、学年が上がるごとに増える笑里ちゃんの“受験サポート”との両立に悩む日々を送っていた。その時、ママ友集団からこんなことを言われたそうだ。
「やっぱり、中学受験は母子の入試だから、お母さん次第よね」
「そうね。塾での勉強より、結局は、家で母親がどれだけ子どもの勉強に手をかけられるかで、合否は決まるらしいわ」
「D学園に行ったCちゃんのママ、仕事辞めて、受験に賭けたそうよ」
「ああ、だからCちゃんは、最難関総舐めって万々歳な結果だったのね?」
その時、清子さんは「笑里の成績急降下は、もしかしたら自分のせい?」と、困惑したとのこと。そこで、悩んだ末、やはり家で笑里ちゃんのサポートをしようと思い立ち、仕事を辞めたという。それはそれで、1人の大人の決断として構わないのだが、清子さんはたびたび笑里ちゃんにこう言ってしまったらしい。
「ママがせっかく得られた仕事まで辞めて、いろいろやってあげてるのに、なんでこんな偏差値しか取れないわけ?」
当時の笑里ちゃんは何も言い返さず、勉強に取り組んでいたそうだが、結局、第3志望の中学に入学。清子さんはここでも、「ママが仕事を諦めたのに、ここなの?」と漏らし、笑里ちゃんはうつむきながら「ごめんなさい」と言うほかなかったそうだ。
それから、数年がたった。笑里ちゃんは今、学校に行けなくなり、公立高校への受験準備をしている。反抗期を迎えた笑里ちゃんは京子さんに対し、「アンタが仕事を辞めたのはアンタの勝手で、私のせいじゃないから! なんでも私のせいにしないで! アンタなんて親だと思ったことは一度もないから。私のことはほっといて!」と、責め立てているという。
このケースも真偽不明のウワサ話に振り回され、中学受験における“大切なこと”を見失ったケースと言えよう。ママ友情報ほど、当てにできないものはないのだ。
中学受験は小学校4年生から参戦することが多く、母にとってはこの3年間という長き日々は、出口の見えないトンネルに入るようなもの。そのため孤独と不安を必要以上に感じてしまうことがあり、母は「共に励まし合い、共感し合える、同じ立場のママ友」と話がしたくてたまらなくなるという“病”に侵される。しかし、“悪夢”はそういう時に、そっと忍び寄るのだ。
最後に、筆者が悩める中学受験生の母に伝える格言のひとつをお教えしておこう。「受験にママ友必要なし!」。
(鳥居りんこ)