[官能小説レビュー]

人恋しい季節に心を温めてくれる官能小説『未亡人酒場』が描く人間模様

2018/12/17 19:00
『未亡人酒場』(実業之日本社)

 先日から日本列島は急激に冷え込み、本格的に冬が訪れてきた。一歩外に出るとつい身を縮こませてしまう凍てつく寒さの中、どんよりとした曇り空の下で粛々と仕事をし、家路につく——誰もが、人恋しくなる季節である。

 こんな時にぜひおすすめをしたいのが官能小説家・葉月奏太の小説だ。北海道在住である彼の作品は、一言で表現すると「ほっこり官能」。たっぷりと盛り込まれた性描写はもちろんだが、葉月氏ならではのあったかいストーリーは読者の心をじんわりと温めてくれる。

 今回ご紹介する『未亡人酒場』(実業之日本社)は、訳ありな男女が集う北国の小粋なバーが舞台だ。妻から突然離婚を告げられ、左遷のような形で札幌支店へ転勤することになった志郎は、2カ月たった今でも札幌の地に慣れることはなかった。

 新しい職場にも馴染めず、友人もいない、冷たい寒さが日常の札幌——まだ見慣れぬ街を歩いていると、ひとりの女性の姿に目を惹かれる。導かれるように後を追っていくと、彼女は小さな雑居ビルに入って行った。どの店に入ったのだろうか……目についたひとつの扉を開くと、そこにはゆったりとした雰囲気の、照明が絞られたアメリカンバル「JOIN-US」があった。

 志郎より年上に見受けられるマスターは、金髪でツンツン頭の寡黙な男。しかし彼が出す酒も料理も絶品で、志郎は週に数回マスターの店に通うことになった。「JOIN-US」の雰囲気に導かれるように、常連の男女は友人となり、美味い酒と料理に舌鼓を打ち、身の内を語り合う。


 若くて元気いっぱい、男性経験は豊富だが男運に恵まれない桃香、仕事が忙しい夫に不満を募らせている奈緒、そして、この店を訪れるきっかけとなった由紀子——いつもモノトーンの服を身にまとい、赤ワインを傾けている彼女の横顔は、どこか悲しみに満ちていた——。

 年輪を重ね、さまざまな経験をしてきた男女が、ひとつの店で友情を育みながら身を重ね合うストーリーには強く共感してしまう。

 どんよりと重たい雲を彷彿させる札幌の地で、人々の温もりを強く感じさせる本作は、今の季節にぴったりの官能小説である。
(いしいのりえ)

最終更新:2018/12/17 19:00
未亡人酒場 (実業之日本社文庫)
ぬくもり欲しいよね