ムロツヨシ『大恋愛~僕を忘れる君と』、“押し”だけじゃない引き算の演技の実力
金曜午後10時から放送されている『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)が盛り上がっている。
本作は34歳のエリート女医・北澤尚(戸田恵梨香)と、引っ越し屋のアルバイトをする41歳の中年男性・間宮真司(ムロツヨシ)の恋愛ドラマだ。マンションの引っ越し作業に来た真司が元小説家で、大好きだった小説『砂にまみれたアンジェリカ』の作者だと知った尚は真司に惹かれていき、エリート医師の井原侑市(TOKIO・松岡昌宏)との婚約も解消する。その後、尚が若年性アルツハイマー病の前段階の軽度認知障害(MCI)を患っていることが明らかになる。
尚は、アルツハイマーの最先端医療の研究を行っている井原の下で治療を受ける中、真司と同棲。少しずつ病気が進行していく中、真司は何もできない自分に劣等感を抱くようになり、やがて自ら別れを告げる……。脚本は大石静。『セカンドバージン』(NHK)のようなメロドラマを得意とする脚本家だ。
『大恋愛』は、お話自体は格差恋愛に難病モノを組み合わせたベタなものである。しかし、ストーリーの展開が絶妙で、どんどんと引き込まれていく。中でも折返し地点となる第5話には驚かされた。真司と尚が別れてから9カ月後、真司は小説家として復帰し、尚のことを書いた小説『脳みそとアップルパイ』を出版。なんとそれがベストセラーになる。
主人公が恋人のことを小説にするという展開はよくあるが、それはヒロインが病死した後、過去を回想する形で最終回に登場する、大抵そのようなものだ。しかし本作は、中間地点に持ってくることで、格差恋愛を解消してしまったのだ。
おそらく、大石にとって格差恋愛は前振りで、難病モノこそ書きたかったテーマなのだろうが、それを差し引いても予想外の展開である。ストーリーも驚かされるが、一番の見どころは、やはりキャスティングだろう。何より戸田恵梨香の恋人役にムロツヨシを持ってきたのが見事である。