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インタビュー

絵本・児童書の“萌え絵”論争――「子どもに悪影響」の声に、児童文学評論家が反論

2018/10/23 18:00

アルプスの少女ハイジ(10歳までに読みたい世界名作) 』(学研プラス)

 では、そんな“大事”な絵本や児童書の表紙に、萌え絵を用いることに関して、赤木氏はどう感じているのだろうか。赤木氏は、「萌え絵を表紙に起用することの是非よりも、萌え絵に文句を言う大人にセンスがあるのかどうかの方が問題」とピシャリと指摘する。

「先ほども言った通り、日本人は本に対するビジュアルセンスが高い。例えば、表紙のイラストが内容にマッチしていなかったり、シリーズ物で1冊だけ違う絵柄だったりすると、その本は売れません。ただし全ての人が“最先端のトップクラス”のビジュアルセンスを持っているわけではありませんし、それにビジュアルセンスは、歳を重ねるにつれ衰えていくものなんです」

 さらに問題なのが、「大多数の大人は、自分のセンスが古くなっていることにも気づけない」ことだそうだ。

「一流と呼ばれるデザイナーが、ある日突然引退するのは、自分のセンスが古くなり、若い人たちに対抗できなくなったことをきちんと悟れるから。でも、多くの大人は気づきません。逆に若い人は、どんなにセンスの悪い人でも、その時代の流行をきちんと把握しているし、30年前のデザインと今のデザインを見分けることができる。よく『若い頃はアイドルの顔が区別できたけれど、今はどのアイドルも同じ顔に見える』というのも、年を取ってビジュアルセンスが使えなくなったからなんです」

 赤木氏は以前、出版社から依頼され、小学校3年生の子どもたちに、絵本に採用する主人公のイラストについて意見を聞いたことがあるという。5種類のイラストを用意し、「どのデザインが一番いい?」と聞いてみたところ、全員一致で1枚のイラストを指したそうだ。そこには、「当時はやっていた“星のついたブーツ”が描かれていたんです。小学校3年生でも、感覚的に“今”がわかっているということです」。

 萌え絵に関しても、若い世代は時代に沿った絵と、そうでないものをきちんと理解しているため、「子どもの中には“好きな萌え絵”と“イヤな萌え絵”の区別が歴然とある」と、赤木氏は語る。

「その違いは、子どもに聞くしかありません。でも、子どもに売れているのなら、それは子どもたちが認めたということ。それが、これからの世界の定番になっていくんです。3歳児が『これがいい』と選んだ色が、これからの10年の流行色を決めるんですよ。絵本の萌え絵化に文句を言っている大人は、アイドルの区別がつかないのと同じように萌え絵の違いを理解できず、男性向けアニメの絵柄と、そうでないものを一緒くたにしているのだと思います」

 なお、絵本や児童書の表紙に萌え絵を使い始めたのはポプラ社で、1980年代から存在していたと赤木氏。萌え絵に違和感を抱くという人も、実は子ども時代、当時の萌え絵に慣れ親しんでいたという可能性もありそうだ。

「ビートルズだって、出てきた当初は不良の聞く音楽とされていましたが、今やクラシックですよ。洋服の流行だって毎年違います。そのように、何事も時代とともに変わっていくんです。絵本のイラストだって同じことなのに、ほかのものには疑問を持たず、絵本にだけ文句を言う人には、『それなら服も30年前の流行のものをずっと着てなよ』って言いたいですね(笑)」

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