ジャガー横田さん息子も“特攻受験”――30以上の偏差値アップを狙った、中学受験親子の天国と地獄
一方で、隆一君が辿ったケースもお知らせしよう。母との二人三脚で難関校のS学園にミラクル合格者として入学したまでは同じ。ここからが違ったのである。
S学園もかなりレベルが高い学校のため、授業の進度は相当速い。難関校はどこも同じなのだが、中学では「内容よりも量」という指導がされるため、宿題も毎日、大量に出されるのである。
この段階で、やるべきことをきちんとこなす自己管理力がない者には、相当、厳しい現実が降りかかってくるのだが、隆一君には荷が重すぎた。いわゆる、“燃え尽き症候群”のようになってしまったのだ。
S学園に合格することが“目標”になり、その目標達成後の未来が思い描けなくなったのだと思われる。毎週のように小テストがあり、クリアできない者は補習に呼ばれという日々に、隆一君は疲れ切ってしまったのだという。
隆一君は、筆者に当時の心境を明かしてくれた。
「入学当初から授業には付いていけず、勉強はやるべきことだらけ。『あれができない』『これもできない』って言われる毎日で、もう全部が嫌になっていました。この勉強が未来にどうつながるのかなんて、まったく考えられず、当時はただ、逃げたい一心でしたね……」
隆一君は併設高校への進学基準を満たすことができず、結果、中3で公立中学に転校した。その後、彼は都立高校から、第一志望の国立大学に入学したのだが、中学受験を振り返ってこう感じるという。
「たとえ、偏差値がかけ離れていても入りたい! っていう意志があるのであれば、僕のように不可能はないと思います。ただ、難関校というのは、“合格”が終わりではなく、さらに深い学びを究めるという“目的”があってこその場所。当時の自分はそこまで考えることができなかったんですよね……。偏差値うんぬんよりも、そこまで考えられるかどうかの方が大事かもしれません」
筆者は、「ミラクル合格」を果たした子たちのその後を多数、取材しているが、言えるのは「合格することだけ」を目標にすると、その後の道は険しく「そこで何をしたいのか、何をするべきなのか」を考えて行動に移せる子の合格であれば、何ら問題はないという自論を持っている。中学受験生の親としては、わが子がその“何をしたいか、何をすべきか”をしっかり持っているかどうかを見る目が必要になるのかもしれない。
(鳥居りんこ)