「就活メイク講座」はなぜ気持ち悪いのか? 日本の“就活マナー”が失ったもの
一方で雨宮氏は、「リクルートスーツ&ひっつめ髪というスタイルを、『マナーを守れるかどうかの踏み絵になる』と肯定的に思っている人もいるかもしれません」と言及。事実、就活スタイルの解説には「それがマナーである」と明記されることがほとんどだが、この“マナー”というものの捉え方に、雨宮氏は疑問を投げかける。
「でも、マナーを守ることとみんな同じ見た目にするのって、全然違いますよね。例えば私が大学卒業後に移住したドイツには、いろんな見た目の人がいます。似合う服や髪形、化粧の仕方だってみんな違う。違うけど、ちゃんとビジネスマナーはあります。結婚式のゲストは好きなヘアスタイルをして好きなドレスを着るけど、『白いドレスやスニーカーはNG』というマナーを守りますよね。それと同じです。マナーを守ることとみんな同じ見た目であることは、違うんです」
雨宮氏の話を聞くと、日本の就活には“本質を失ったマナー”が横行しているように感じられるが、では、果たしてそのマナーを強化しているのは、一体誰なのだろうか。
「パンテーンの調査によると、半数近くの企業が『面接時の学生の服装や髪型は評価に影響しない』と答えていて、服装や髪形で個性を出して面接を受けることに7割の企業が賛成しているそうです。それでも多くの学生は、『見た目の個性はなくさなきゃいけない』と思い込んでいます」という雨宮氏の指摘からは、就活での失敗を過剰に恐れ、“間違いのないスタイル”を追い求める学生の姿も浮かび上がってくる。
「『自分の見た目は自分で決めていい』と伝えるパンテーンの広告が、不要に浸透した『こうあるべき就活生の外見』という思い込みを壊し、見た目の多様性を認めるきっかけになるといいですね。『みんな同じ見た目が当然』というのは、裏を返せば『見た目が違う人は差別していい』という思考につながる可能性がありますから……。『当社の面接へはビジネスマナーを踏まえて自由な服装でお越しください』と書いているかどうかで、学生が応募するかどうかを決める時代が来るのかもしれません。というか、そうなってほしいです」
「現代の就活生が、ありのままの姿で、自分らしく就職活動ができること」と謳ったパンテーン広告だが、“ありのまま”“自分らしく”というのは、近年盛んに使われすぎている言葉だけに、その意味するところが漠然としつつある。雨宮氏は「自分の見た目は自分で決めていい」と表現したが、それは同時に、就活生の“企業に選んでいただく”という意識からの脱却をも示唆しているのではないだろうか。自分で選ぶことの自由さ、それに伴う責任を、就活生は求められる時代になるのかもしれない。