のぶみ“働く母親像”炎上に考える、子どもを保育園に預けることはなぜ“罪悪感”を生むのか?
9月22日に新作絵本『はたらきママとほいくえんちゃん』(WAVE出版)を発表し、その内容が物議を醸しているのぶみ氏。前編では、社会学者で武蔵大学教授の千田有紀氏に、同作はなぜ炎上したのか、また批判されるポイントへの考察を聞いた。後編では、本作品も含めて、のぶみ氏の働く母親を応援しているという姿勢への違和感、そして、彼がこれまでに描こうとしてきた「母親の自己犠牲と罪悪感」の違和感について探っていく。
働く母親への上から目線の共感
――さまざまな問題をはらむ『はたらきママとほいくえんちゃん』ですが、批判も多い一方、のぶみ氏の根強いファンには好評のようです。
千田有紀氏(以下、千田) のぶみ氏の絵本は、売れていると聞きます。『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)も、とても売れ行きが良かったと。
――続編と合わせて53万部を突破したそうです。
千田 絵本って、母親が幼い頃に読んで、よかったものを子どもにも読ませるものなんですよ。だから、『ぐりとぐら』(福音館書店)のような良作が、世代を超えて安定して売れる市場のはずなのですが、そこにパッと出てきて、アッという間に売れるのはすごいですよね。だからこそ、今回の作品も含めて、「誰が誰のためにのぶみ氏の絵本を読んでいるのか」が気になるんです。母親が自分のために買って読んでいるのか、それとも子どもに読み聞かせているのか……もし子どもに読み聞かせているとしたら、軽い洗脳とも言えるのではないでしょうか。
というのも、母親が働くことの罪悪感を、子どもに正当化させていますから。この本を親が子どもに読み聞かせることで、子ども自身が「自分はこうあるべきなんじゃないか」と遠慮してしまうかもしれません。「こうあるべき」「こうであってほしい」という親の気持ちを、無理やり子どもに押しつけているというところで、洗脳な気がしています。
――のぶみ氏の絵本が売れているのは、子どもにそう思ってもらいたい親が多いということなのかもしれませんね。
千田 たとえ、親が自分のために買って、読んでいるとしても、やはりのぶみ氏が、働くママを応援しているとは、この絵本を読んで到底思えないんですよね。シチュエーションをそのままにして、主人公が父親であればこんな話にならないと思うんですよ。お父さんが自己実現のために働いて、子どもが熱を出そうがお迎えに行くのが遅れようが、これほどまでの罪悪感を抱くかどうか。「家族のために働いてるんだから、しょうがないだろ!」と怒って終わりという結末もあり得ます。母親というだけで、なぜこんなに働くことに罪悪感を負わせているんでしょうね。
――のぶみ氏は、実際に働く母親に話を聞いた上で絵本を描いているそうです。
千田 働く母親に共感していたとしても、どうしても、のぶみ氏の“上から目線の共感”に思えてしまいます。働く母親を応援しようという気持ちも感じません。母親が働いているシーンでは、責任のある仕事を任せられている様子はないし、働く姿を「キラキラ」という一言で表したり、「ママのまえに ひとりのあたしでも あるのよ」というのが働く動機となっているところをみても、働く母親の気持ちをわかっているとは思えないんですよね。
さらには、子どもが保育園でうまくやれていないシーンを入れていますよね。保育園に預けていることで、この子どもが荒れているような描写を入れて、“でもキラキラしているママが好き”というオチをもってくるなど、のぶみ氏が、お母さんの気持ちに寄り添っているとは思えません。
――寄り添っていそうに見えて、実はまったく寄り添っていない……という。
千田 むしろ、母が働いているせいで、子どもがこんなことになっていると、不安を助長させています。のぶみ氏の絵本は、働いている母親の状況を理解していれば、「なんかおかしくない?」と疑問に思うシチュエーションが次々と盛り込まれており、やはり「誰が誰のためにのぶみ氏の絵本を読んでいるのか」が気になります。