ジャニーズJr.・佐藤龍我の魅力を巧みに引き出した、『ゼロ』のオタク的パーフェクトさ
さらに、拘束され、水槽に沈められるという水攻め→頭上からのアングルで映し出すという、「オタクの需要わかってる」感。対戦チームを組むため指名した相手に、「一番バカそうだったから(選んだ)」と答えるドSぶりで視聴者を沸かせたかと思いきや、実は、信用できる大人だと思って指名したことが発覚するという、ほんわかエピソードまである。
その天才的頭脳に心酔した者を多数従え、年長者たちから「標様」と呼ばれながら歩く「帝王感」も痛快だった。ジャニーズのドラマデビューとしては、Hey!Say!JUMP・山田涼介の『探偵学園Q』(同)の天才中学生・天草流以来のオイシイ役だったのではないだろうか。
さらに、このクールな標役が気になった視聴者が佐藤の情報を調べたとして、出てくるのはYouTube「ジャニーズJr.チャンネル」で、東京B少年のメンバーたちと一緒にトランポリンをしたり、ゲームをしたり、罰ゲームをしたりしながら、終始笑顔でキャッキャとはしゃぐ無邪気な姿である。クールで笑顔を見せない天才中学生と、仲間たちから「赤ちゃん」呼ばわりされるニコニコぶりとのギャップ。ここまでの流れが実に巧妙に仕掛けられた罠のように思えてならない。
とはいえ、ドラマではラスト2話で退場したため、最終回は最後にちょっと出るだけだろうと高をくくっていたが、まさかの最後の最後、エンディングに最凶の罠が仕掛けられていた。
最後に登場したのは、「普通の中学生」としての標である。自室で眺めている模試の結果は、全科目1位。勉強机の前で、ジャージ姿でメロンパンをモグモグする傍らには、分厚い事典や全集などが整然と並べられた本棚が。しかも、足元を見ると、足が長すぎるためにジャージの丈がまったく足りていないのが、いかにも無防備だ。
そこから、お母さんと向き合っての夕食風景。お母さんが美人でもなくゴージャスでもなく、“普通のおかん”であること、冷蔵庫にメモが貼られているような、ごく普通の庶民家庭であることも、実に良い。しかも、「またご飯前に菓子パン食べたでしょ? あ、(青椒肉絲の)ピーマン、残さな~い! ねえ、勉強できてもさあ、そういうことちゃんとしなきゃダメじゃない、人として」「箸の持ち方~!」とお母さんに次々に注意され、「はい」と素直に返事をしつつ、やっぱりピーマンは食べていないというオチに至るまで、全てがパーフェクト。
ここまで見て、なぜ標パートだけがオタクを刺激する要素満載で、練りに練られた緻密さで構成されていたのか、あらためて不思議だ。ドラマ制作サイドにオタクがいたのか、それとも佐藤龍我プロジェクトが秘密裏に進行しているのか? 謎が解けるどころか、深まるばかりだ。
(田幸和歌子)