東京五輪ボランティア経験は「ブラック企業のいいカモ」に? 「就活に有利」のウソに迫る
「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」(以下、組織委)が9月12日、大会ボランティアの募集を9月26日13時からスタートすることを発表した。「会場内等で観客や大会関係者の案内」「競技会場や練習会場内で競技運営等のサポート」などの活動を予定しており、募集人数は8万人。また東京都も、観客の交通案内を行う都市ボランティアを、同日同時刻より3万人募集するそうだ。
東京五輪の大会ボランティアといえば、その募集要項が公開されるや否や、「ブラックボランティア」「やりがい搾取」と大炎上。「大会期間中及び大会期間前後において、10日以上の活動を基本」「休憩・待機時間を含み、1日8時間程度活動」「事前のオリエンテーションや研修に合計2回参加」「交通費及び宿泊は、自己負担・自己手配」というボランティアへの負担がかなり大きい内容で、しかも当然のことながら「無償」とあって、ネット上では「誰がこんな過酷なボランティアをしようと思うんだ」「人が集まらないのでは?」と声が飛び交っている。
組織委は、大会ボランティアの担い手として、主に大学生を有望視しているようで、組織委はボランティアの募集開始前までに、全国の大学を回って、「ボランティア募集説明会」を開催。また、7月には、文部科学省とスポーツ庁が、全国の大学と高等専門学校に対し、大会期間中の授業や試験の日程を柔軟に変更するよう求める通知を出している。そんな中でよく言われているのが、「東京五輪オリンピックは就職活動に有利になる」といった言説だ。確かに、大会ボランティアの経験は人生で何度も経験できるものではなく、また大学生の中には「少しでも有利に働くのであればやってみたい」と思う者もいるのではないだろうか。果たして、このウワサは本当なのか? 今回、『あらゆる就職情報は操作されている』(扶桑社)の著者であり、就活・ブラック企業事情に詳しいノンフィクションライター・恵比須半蔵氏が、ウワサの真偽ほか、逆に大会ボランティアが就活の妨げになる可能性、はたまた大会ボランティアが“ブラック化”した背景を明かす。
「就職活動に有利となる」のは本当なのか?
残念ながら、東京五輪にボランティアとして参加した経験は就活で有利に働きません。
東京五輪のボランティア活動を前面に押し出した就活は失敗する可能性が高いです。大手メーカーの採用担当者からこのような話を聞きました。「有利? いやいやそんなことはありえません。災害ボランティアならともかく、東京2020ではねえ……。お祭り気分に浸りたいだけの自己満足、青春の思い出づくりとしか思えません。それを嬉々として語られてもしらけますよ」。ほかにも、ため息まじりの似たような本音を複数耳にします。しかし採用の現場が嘆くのも無理はありません。
彼らはエントリーシートや面接でのよくあるエピソード「自分が成長した話」に辟易しているのです。それは例えば、「バイトでリーダーとなり、いろいろなトラブルもあったが、最終的にほかのバイトたちをまとめ、それで自分は人間的に成長することできた」というものです。「苦難・解決・成長」という紋切り型のこのパターンは、ある就活予備校が有効な自己PRとして受講者に勧め、テンプレート化され拡散したものです。ちなみに、なぜか居酒屋のバイト体験談が圧倒的に多いのですが、それはサークルやゼミでの活動等にも応用できます。――そしてもちろん東京五輪でのボランティアでも使えます。「最初は現場が混乱していたが、仲間どうし手を取り合って頑張り、外国人観光客の役に立つことができ、その体験で自分は成長できました」。こんな感じでしょうか。担当者の神経を逆なですることは確実です。もしAI採用を導入する企業が出てきたら「東京五輪 ボランティア活動」という単語のあるエントリーシートは、不採用のフラグとともに弾かれるかもしれません。残念ながら、就活で有利に働くことはありません。