児童相談所の権限強化や警察との全件共有は、本当に救える命を増やすのだろうか?
東京都・目黒区で5歳の船戸結愛ちゃんが亡くなった事件。父親から日常的に暴力を振るわれ、十分な食事を与えられず衰弱死したという悲惨な虐待の内容と、結愛ちゃんが書いた「おねがい ゆるして」という手書きの文章は社会に大きな衝撃を与えた。このような凄惨な虐待事件が明るみにでると、加虐者への厳罰化を求める声や児童相談所へのバッシング、権限強化を促す声が勢力を持ちやすい。しかし、本当に厳罰化が虐待を抑制できるのか? 児童相談所に権力を集中させれば、助かる命が増えるのだろうか?
サイゾーウーマンではこの事件をきっかけに改めて虐待を考える特集を組んでいる。第1回はデータから「虐待の現実」を探ったが、第2回では、日本社会事業大学専門職大学院教授の宮島清さんに現在の虐待対応の体制について話を聞いた。
【第1回】「加害者の半数は実母」「幼児より新生児の被害が圧倒的に多い」――児童虐待の事実をどのぐらい知っていますか?
結愛ちゃん事件での児相の対応は、本当に「怠慢」や「不適切」なのか
本特集の第1回で解説したように、全国の児童相談所(以下、児相)が対応している虐待件数は“数字上”は年々「急増」しており、中には児童福祉司1人が100件の案件を抱えているという所も少なくない。結愛ちゃん事件についても、一家の転居に伴い、父親への指導措置(※「措置」とは、児童福祉法において都道府県や児童相談所が行う行政処分)を解除した上で、継続的に支援を要する「ケース移管」として伝えたとする香川県と、そういった対応を求めない「情報提供」の事案として受理したとする東京都の児相との食い違いが起こり、都の児相が結愛ちゃんに会えていなかったことが明らかに。これにより「忙殺されていたにしても児相が対応を怠った」「もっとしっかり対応すれば、結愛ちゃんを救えたはずだ」との大きなバッシングを呼んだ。この点について宮島さんは、形式的なミスだけではなく、内容の見落しというミスが重なった可能性が高いとした上で、ミスや漏れをチェックできなかった体制の問題を指摘する。
「児相間のルールでは、ケース移管の際には指導措置を解除しないというルールがあります。解除したなら終結しているという都の言い分が勝って伝えられているように感じます。しかし、引継ぎの形式に不備があったとしても、香川県の児相から支援の経過記録が送られ、さらに何度も連絡し、県の病院が直接都の児相に連絡したという報道がありました。都の児相には、既に住所を移したこのケースを危険性が高いものと自ら判断する責任があったはずです。それがなぜできなかったのか、疑問が残ります」
また宮島さんは、香川県の児相の対応を「腰が引けている、と決めつけることはできない」と評する。一家が香川に住んでいるころ、父親は結愛ちゃんに対する傷害容疑で2度起訴されているが、いずれも不起訴処分となっている。「司法が2度とも“罪には問えません”ないしは“処罰するには足りません”という判断を下した中でも、香川県の児相は『それでも私たちは、あなた方家族に関わり続けます』という指導措置を取っていることになります。それは評価されて良い対応であった可能性が高い。そうであれば、奮闘していたという見方も成り立ちます」。
子どもへの暴力が軽視されることについては、今回の特集の第3回で改めて論じてみたい。