アパレルの「過剰接客」がなくならないワケ――やたらと声を掛けるのは“時代遅れ”?
「『お客様にはできるだけ早く声を掛けましょう』と促す販売マニュアルは、百貨店などを中心にいまでも多く存在します。戦後の高度成長期などは、極端に言えば、在庫がそろっていて声を掛けさえすれば売れた時代。その成功体験を引きずって、現在のお客様の買い方の変化に対応しきれていないところが、ファッション業界には見られると思います」
こう教えてくれたのは「『売れる販売員』と『ダメ販売員』の習慣」(アスカビジネス)など、接客に関する著作を多数持つ、ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)コンサルタントの内藤加奈子さん。内藤さんによると、ファッション業界では、「売るために積極的に声掛けを」という空気感が昔から存在しているのだという。
「ブランドの売り上げが下がると『なぜ売れないのか?』という社内会議が行われ、スタッフの販売力不足が指摘される場面があります。そこで販売マニュアルを見直せばいいのですが、やみくもに『よりお客様に声掛けを』という方針になってしまう。そのような追い詰められた状況でスタッフが話し掛けると、お客様にそのプレッシャーを伝染させるようになって、より嫌悪感を抱かせてしまうという負のスパイラルに陥ることがあります」
一方で、近年、台頭してきたファストファッションの代表格といえるユニクロやH&Mなどでは、店員から声を掛けるということは基本的にない。ネットでの買い物に慣れてしまうと、放っておいてくれる接客スタイルは非常に心地よいのだが、ブランドによってこのような接客姿勢の違いが見られるのは、なぜなのか?
「ファストファッションは、トレンドのものがメインですので、特に説明がなくてもお客様が欲しければ買う商品です。メディアで目にする機会も多く、お客様自身もすでにその商品の着方をわかっていることが多いので、提案型の接客をする必要がないのです。逆に目新しいものやデザイン性の強い洋服は、販売員が説明することで魅力も増し、売り上げにつながると考えられます」
確かにユニクロで「この服って、何に合わせればいいんだろう……」などと思い悩んだ記憶は一切ない。逆にいえば、特定のブランドや店舗、そして店員を目当てにやってくる客の中には、当然、話し掛けてほしいと思っている人も少なくないということだ。しかも、販売員が話し掛けないことで「接客態度が悪い!」とクレームを入れてくる客もいるのだというから、客と店員の適切な距離感は測りにくい。