彼女たちはなぜセックスを売るのか? 『飛田の子』が描くワケあり女性たちの人生
今回は趣向を変えて、ノンフィクションの作品を紹介したいと思う。
「飛田新地」をご存じだろうか? 風俗が好きな男性はもちろん、性風俗に関心のある女性であれば、その名を聞いただけで、どのような場所であるか想像がつくだろう。
大阪にある最大の遊郭として知られている飛田新地は、約7万平方キロメートルのエリアに160軒近くの「料亭」が存在している。その広さは、阪神甲子園球場のおよそ2個分である。
ピンク色のライトを浴びて店先に座る女性たちは、女優やモデル並みの容姿を持つ者も少なくないという。「料亭の店員」という名目の彼女たちは、にこやかな笑顔を浮かべて客である男たちを誘い、そして男は女性を気に入ればオバチャンと交渉し、女性とともに料亭の2階へと上がる——。日本人にはもちろん、外国人観光客からも「観光地」として広く認知されている、日本最大の遊郭である。
今回ご紹介する『飛田の子〜遊郭の街に働く女たちの人生〜』(徳間書店)の筆者は、元・飛田新地の料亭経営者であり、今では料亭のスカウトマンをしている杉田圭介氏。本作は、彼がこれまで出会ってきた飛田の女たちを小説形式で紹介している。個性あふれる5人の女性が飛田で織りなす物語を、生々しく表現した。
飛田で働く女性たちの多くの理由は「金」である。ホストにハマったキャバ嬢が多いというが、金の使い道はさまざまだ。
杉坂氏がスカウトマンをしている料亭のベテランであるカナは、バツイチの29歳。子どもができにくい体質であったカナの夢は助産師になることであった。そんなカナを主軸として料亭を運営する中、既婚で子持ちのナオが飛び込みでやってくる。彼女は結婚前に飛田のエース級の女性たちがいる「青春通り」の店で働いていた、元・飛田の女性である。稼ぎの少ないサラリーマンである夫を支えるために飛田に戻って来たナオは、1歳になる子どもを保育所に預けられる間だけ働くことになった。しかし「子どもを作れる」ナオに嫉妬したカナは、ナオと衝突してしまう——。
飛田で働く女たちが持つそれぞれの深い理由と、交錯する心の物語がリアルに描かれている。中でも本作の主人公であるスーパースター・アユの物語は実に面白い。関西の大手企業に勤めていた彼女が、なぜ飛田で働き始めたのか、そして飛田でスーパースターと言われるほどに客を取り、その地位にのし上がった経緯などが描かれている。
本作で紹介されている5人の女性たちに共通して言えることがある。それは、セックスを売ることに対して躊躇がない点だ。かつては、女を売るという仕事に対して抵抗を持ちながら仕方なく働いている女性がほとんどであった。しかし現在は、夢や目標のためなら遠慮なく脱ぎ、女として売れる武器を利用して金を稼ぐ女性が増えてきたように感じる。
私がこうして日常を過ごしている今も、飛田の地には、逞しい女性たちが今日も店先で微笑んでいるのだ。
(いしいのりえ)