コラム
“中学受験”に見る親と子の姿

中学受験で難関私立合格、しかし不登校に――「息子を医者に」と願った“完璧主義ママ”の罪

2018/06/24 17:00

 亜由美さん個人による、小学校受験の不合格分析は“工作の対策遅れ”。要するに、祐樹君はハサミを上手に扱えず、それをリカバリーすることができなかったから不合格だったという結論を、亜由美さんが勝手に下したのだ(小学校受験の不合格の理由はその学校の試験官しかわからないので、分析しても無意味である。要するに「ご縁がなかった」ということに尽きると、筆者は思うのだが)。

 以来、亜由美さんは祐樹君の“弱点補強”にこれまで以上に力を入れ始めた。“弱点補強”は必ずしも悪いことではないが、亜由美さんはどちらかといえば、近視眼的タイプで「ミスはあってはならない!」という思考になっていったらしい。それゆえ、解き方のプロセスよりも、正答か否かだけで評価を下すことに心血を注ぎ込んでしまったそうだ。それは、まるで正答しなければ合格できない! と思い込んだかのようだった。

 中学受験で合格することは大きな喜びではあるものの、それは単なる“結果”に過ぎない。それよりも、日々の暮らしの中で「勉強するってなんかワクワクするね!」「学ぶって面白いね!」というような“知的好奇心”をくすぐることに重きを置いた方が、子どもは勝手に伸びていく傾向があるが、頭ではわかっていても、毎週のようにテストはあり、毎月成績によってクラス替えも行われ、さらには成績順で座る位置も決まってしまうような“塾社会”に身を置かれると、人は簡単に大切なことを見失う。結果、亜由美さんは祐樹君のテストの点数にしか頭が回らなくなり、試験のたびにこういう言い方を祐樹君にしていたという。

「98点? 惜しいわね。ここのケアレスミスさえなければ満点だったのに!」
「次回は満点を取るようにしないとね。祐樹ならできるわ」

 受験にはそもそも満点は必要ない。どこの学校であっても、合格ラインは70%前後に設定してあるからだ。しかし、亜由美さんは理想が高い“完璧主義”病にかかってしまったかのように、たとえ祐樹君がクラス最高点を取ったとしても、それが満点でないのならば、決して満足はできなくなってしまったのだ。

 一方の祐樹君だが、彼は優秀だったので、苦手科目より、得意科目の方がはるかに多かったにもかかわらず、常に“できないこと”に注目し続ける母の期待に応えようと、母と同じく「小学校受験のリベンジ」を目標に頑張り続けた。そして、結果的に、難関私立中学に合格。亜由美さんはようやく長年の努力が実ったのだと涙していた。

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