万引きGメン・澄江(65歳)、スーパーの品出しパートだった私が保安員になったワケ
はじめまして、保安員(万引きGメン)の澄江です。智美の先輩にあたる私は、この道一筋40年、いままでにたくさんの万引き犯を捕まえてきました。今年で65歳になりますが、いまも週のうち5日は現場に立って、平均して月に7~8人は捕捉しています。主な派遣先は、スーパーや百貨店、ドラッグストア、ショッピングモール、アパレルなどで、変わったところで言えば空港の免税店や道の駅、巨大遊園地のオフィシャルショップにおける勤務も経験しました。捕捉率は2~3割なので決して腕利きの保安員とは言えませんが、急な欠勤や誤認事故などのトラブルはなく、安定感のある職員として使っていただいているようです。
いま思えば、急なお休みをいただいたのは、声をかけた被疑者に投げ飛ばされて胸骨を折られた時と、車に乗り込んだ被疑者を捕まえようとドアノブに手を入れたところで発進されて指が切れた時くらいでしたね。両事案とも犯人は捕まっていませんが、いまでも顔はしっかりと覚えているので、いつの日か捕まえてやりたいと思っています。
この仕事を始めたキッカケは、ウチの近所にあるスーパーで品出しのパートをしている時に、いくつかのお菓子を万引きした小学4年生の男の子を捕まえたことでした。もともと正義感が強いこともあって、「お金払わないとダメだよ」と、つい呼び止めてしまったわけです。泣きわめく男の子をなだめながら事務所に連れて行くと、施設の出入管理を担当する制服警備員に驚かれました。
「おかるを捕まえちゃうなんて、スゴイですねえ。我々でも難しいのに……」
おかるとは、万引き犯のことを指すスーパーの隠語で、いまも一部で使われています。確かなことはわかりませんが、忠臣蔵の芝居に登場する盗賊一味の名前が由来だといわれており、『サザエさん』に出てくる伊佐坂先生の奥さんは関係ありません。
館内放送で店長を呼び出して状況を説明すると、思いのほか喜んでくれて、「お手柄でした」と私のことを褒めてくれました。商品の不明ロスは賞与計算に影響するため、2人の子を持つ店長は、常日頃から万引き被害に頭を悩ませていたのです。
「澄江さん、こっちの才能あるんじゃない? ウチの会社、紹介しようか?」
珍しく他人に褒められたことがうれしくて、どこかくすぐったいような気分で喜びを噛み締めていると、制服警備員に冷やかされました。その一言が、なぜか心に刺さってしまい、この仕事に就いたのです。
両親はパートより正社員の方がいいと反対しませんでしたが、当時付き合っていた彼(亡夫)は刑事だったこともあって、あまりいい顔をしませんでした。ほかの警察官や刑事にちょっかいを出されるんじゃないかとか、それが自分の上司だったらどうするんだなどと、若かったからケガのことなんかよりも異性関係のことを中心に心配していましたね。ちょっと鬱陶しかったけど、まったくモテたことのない私を美人扱いしてくれて、うれしかったです。ちなみに、その不安は違う形で的中して顔なじみになった現場の店長さんから告白されたり、何度か取調べを担当された老刑事から執拗に見合いを勧められたこともありました。