中学受験に「父親」は必要ない? 試験本番、夫に「綺麗ごと言わないで!」と激怒した妻の告白
その時、由佳さんの脳裏には走馬灯のように春香ちゃんが生まれてからの日々が浮かんできたそうだ。そして、そこにはいつも、春香ちゃんへの愛情を示してくれると共に、由佳さんを大切にしてくれている夫がいることに気が付いたというのだ。由佳さんは筆者にこう教えてくれた。
「私はあの時、合格か不合格かしか考えることができなくなっていましたね。春香……もっと言うと、私たち家族が受験を目標にしたからこそ、手にできたいろいろな宝物のことを忘れていました。夫は合格とか不合格という単なる“結果”ではなく、もっと大きなことを考えてくれていたんですよね」
由佳さんとしては「母と娘2人で挑んだ」と思っていた中学受験。しかしこの時、夫が父親として、春香ちゃんにどう接していたかを思い返したという。
「主人は春香に『目標に向かってコツコツと努力すること』『自分で習得した知識は誰にも奪われないこと』『勉強するのはつらいこともあるけど、ワクワクすること』を折につけ、話して聞かせていたんです。エキサイトする私をいつも一歩引いたところで落ち着いて見ていてくれて春香の成績が下がろうとも、やっている姿勢を評価してくれていたってことに、私はようやく気が付いたんです。その時、やっと、主人と結婚して良かったって、この人が春香のパパで良かったって、本当にそう思えて、これからは主人を大切にしていこうって決心しました」
由佳さんは、春香ちゃんの受験を待つカフェで、夫に「ありがとう」と伝えたという。こんなに素直に感謝の気持ちを伝えることができたのは、結婚以来初めてだったそうだ。
その後、春香ちゃんは見事に2月4日の受験校に合格した。筆者が春香ちゃんに、入学後のご両親の仲を聞いたところ、笑顔でこう教えてくれた。
「もう勝手にやって! ってくらい仲いいです(笑)」
中学受験ではこのように「雨降って地固まる」ということもよくある話。要は、物事はどう捉えるかで天と地ほども差が開くという証明でもある。これが“中学受験”の怖さでもあるし、奥深さでもあると筆者は思っている。
(鳥居りんこ)