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薬物依存者の「見た目激変」は嘘八百!? 医師が「薬物タレントの外見変化」真相を明かす

2018/06/06 16:00

 ではなぜ、これほどまでに、「薬物=見た目が変わる」というイメージが広まってしまったのだろうか。松本先生は、薬物が広まった背景をひもときながら、次のような見解を示してくれた。

「クスリというと、反社会的な人物が手を染めるものと考えられているかもしれませんが、第二次世界大戦後の日本では、新聞記者や文化人たちもクスリを使っていて、作家の坂口安吾さんや織田作之助さんがヒロポン注射をよく打っていたというのも有名な話。その後、薬物が違法化されたことにより、反社会的な生育歴を持つ人が薬物を使用するようになっていったという流れなんです。昭和50年代頃には、そういった反社会的な人物が、クスリの影響というより、その人の元々の性格によって、凶悪事件を多数起こしたことでクスリも社会問題になり、また、そうした人物がより多くの人をハメようと、濃度を高め、依存性を強めた薬物を世に広めようとしていました。日本民間放送連盟(民放連)が『覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?』というCMを流し始めたのも、ちょうどその頃。覚せい剤撲滅のために、クスリがいかに恐怖なのかというのを知らしめようとしたのだと思いますが、マスメディアがそのベタなイメージを深く考えずに今も使っているのが、『薬物=見た目が変わる』という印象を強めてしまったのかなと考えます」

 バブルがはじけた直後から90年代半ば頃には、一般人の間にも覚せい剤が広がり、「推測ですが、ここ数年で逮捕された芸能人たちは、その頃にクスリを始めたのでは。そういう人たちは、反社会的な人物ではないから、凶悪事件を起こさない。でもクスリをやめるのは難しくて、結果、捕まったのかなと感じています」。

 また、松本先生は、薬物は見た目を激変させるというのが、薬物使用者への偏見や差別を増長させるのではないかと、危惧しているそうだ。

「芸能人が薬物逮捕された際、マスメディアが、見た目の変化をことさらに指摘し、『薬物依存者はモンスター』というイメージを強調させているのではないでしょうか。薬物乱用防止のための啓発かもしれませんが、一方で、薬物依存症リハビリ施設『ダルク』の設立反対運動が市民の間で起こっているという話を聞くと、差別や偏見を増長させ、治療を目指す薬物依存者を孤立させているのではないかと感じてしまうんです。マスメディアの報道の仕方も考えていかなければいけませんね」

 最後に、「『見た目は変わらないからクスリをやっても大丈夫』と訴えたいわけではなく、かと言って『見た目は変わらないけれど、逆にこんな恐ろしさがある』と、ことさらに恐怖を煽りたいわけではない」と語った松本先生。「違法薬物に手を出してはいけない」という啓発とともに、薬物にまつわる正しい知識を世間に周知させることの重要性を実感させられた。

松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年佐賀医科大学医学部卒業後、国立横浜病院精神科、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部附属病院精神科などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神科救急学会理事。『よくわかるSMARPP―あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』(講談社)など著書多数。

最終更新:2018/06/06 18:17
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