「大金払って中学受験させる意味って?」公立出身の母が、成績不振の息子に抱く疑問とその答え
学力の伸びがわからない、中学受験の罠
翔太くん(12歳)の場合もそうだった。母である夏子さん(44歳)から見ても、翔太くんは勉強好きには見えず、YouTubeに夢中で、机の前に引っ張ってくるだけでも疲れる日々。塾のクラスも上がらず、受験直前の模試でも第一志望校には黄色信号が点滅している状況だったそうだ。夏子さん自身が公立中出身者ということもあり、いつも頭のどこかで「勉強が好きじゃないのだから、大金払って受験する意味があるのだろうか?」という疑問が渦巻いていたという。
そのため、特に小5~6の2年間は、何かにつけ「やる気がないなら、受験をやめなさい!」⇔「嫌だ! 絶対、やめない! 受験はする!」という親子バトルが頻繁に繰り返されていた。
夏子さんが塾に勝手に“退塾届”を持って行ったことも、塾の先生に翔太くんの受験に対する甘さを諫めてもらうようにお願いしたことも、はたまた翔太くんのテキストを、怒りの余り、ゴミ袋に入れたこともあったという。その度に、翔太くんは泣きながら「塾に行かせてほしい。絶対に頑張るから!」と夏子さんに懇願したそうだ。
夏子さんだって、きっとわかっていたのだろう。「やる気がない」といくら言おうが、翔太くんは、受験をしない小学生とは比較にならないくらいの勉強量をこなしている。ただ、その成績が、夏子さんの夢見る“数字的レベル”に達していないだけなのだ。
中学受験は全員が同じ方向を向いて、日々、努力をしているので、そう簡単には偏差値の急上昇は見込めないのだが、哀しいことに、サボると一気に急降下する。よって、親は学力の伸びを、“わが子自身のビフォー・アフター”ではなく、常に“誰かとの比較”でしか見られなくなってしまう。それが中学受験の一番の罠なのかもしれない。
壮絶な親子バトルの末に……
大多数の親子がそうであるように、夏子さんと翔太くんも、親子で小さな小競り合いを繰り返しながら、受験本番直前の塾の最終日を迎えた。夏子さんはいつも通り、自宅近所のバス停まで翔太くんを迎えに出向いた。この3年間、そこから親子2人で並んで帰ることがほぼ日課のようになっていたのだ。
バスから降りるや否や、翔太くんがお弁当の感想を言ってくる日もあれば、饒舌に塾での笑い話を聞かせてくれることもあったという。この帰り道が、親子のささやかな触れ合いの場でもあったのだ。