オンナ万引きGメンが見た、「万引き凶悪地帯」――特攻服の少年&ブラジル人との死闘
こうした場合、万引きが事後強盗扱いとなり、警察は緊急配備を敷いて犯人の捜索にあたります。救急車が到着するまでの間、複数の刑事さんを相手に現場で状況を説明しながら実況見分を行い、救急車の車内でも同乗してきた女性警察官から詳しい事情を聞かれました。病院での応急処置を終えても、帰宅することはできません。いつもと同じように警察署に行って、被害届や調書を始め、さまざまな書類を作らなければならないのです。
いつもより丁重な感じで刑事課の取調室に案内されると、一番偉くみえる課長さんらしき刑事さんが入ってきて、不自然な状態で壁にかかる黒いカーテンをつまみながら言いました。
「このカーテンの向こうに、被疑者と見られる男が座っています。向こうからは見えないので、この男が犯人かどうか確認してもらえますか」
カーテンが引かれると、いわゆる「面通し」に使う暗いガラス窓が現れ、その窓を覗くと、私を突き飛ばして逃走した男が、刑事さんと向かい合って座っているのが見えました。
「この人に、間違いありません」
どこで捕まえたのか刑事さんに尋ねると、私が病院を出発するくらいの時間に、現場近くの公園で水を飲んでいたところを発見されたということでした。
「では、そのまま見ていてください」
そう言って隣室に向かった課長さんは、腕時計を見て男に時間を伝えると、部下の刑事さんに命じて手錠をかけさせました。恐らく男の手に手錠がかかるところを私に見せることで、被害感情を和らげようとしてくれたのでしょう。地方の刑事さんは、なかなか粋なことをやるものだと、少し感動しました。
このことは地元のテレビや新聞などで報道されましたが、自分が病院送りにされていることから喜びはありませんでした。いま思うとぞっとするばかりで、死ななくてよかったと心から思います。
(文=智美、監修=伊東ゆう)