カルチャー
マンガ評論家・紙屋高雪氏インタビュー

実写映画化『ママレード・ボーイ』はスワッピング漫画では!? トンデモ設定なのに支持されるワケ

2018/04/28 18:00

 さらに、『ママレード・ボーイ』は、少女マンガの王道といえる要素をてんこ盛りに入れた挑戦的な作品でもあるのだ。

「イケメン同級生・遊との突然の同居、教師と生徒(光希の親友・茗子)の禁断愛、同級生の銀太と遊の元カノ・亜梨実を含めた四角関係、実は光希と遊は兄妹かもしれないという衝撃の事実……などなど、少女マンガにありがちな要素が『ママレード・ボーイ』にはすべてきれいに収まっています。1つの作品の中でいろいろ楽しめて、なおかつ自分に合った志向の恋愛が見つけられるという、テーマパーク的な楽しさがあります」

 それゆえに、多くの読者層を取り入れることに成功したのだ。そして、この作品を語る上で外せないのが、巧妙なキスシーンだ。

「キスというのは、かつて小学生女子が読むマンガ誌における、最大限の恋愛・性表現でした。吉住先生は、小学生が絶妙に興奮するキスのシチュエーションを作るのが、すごくうまい作家です。アニメのオープニングで、あんなにじっくりキスシーンを持ってくる作品は、ほかにはないように思います」

 保健室で寝ている光希に、遊がそっとキスをするシーンは、『ママレード・ボーイ』の鉄板シーンともいえる。そして、圧巻なのはクローゼットの中でのキス。 「狭いクローゼットの中 何度もキスして きつく抱きしめあった 幸せだった」というモノローグは、当時の少女たちにはどれだけいやらしく映ったことだろうか。「高校生になったら、こんなオトナの恋愛ができるのかも!」とドキドキしたに違いない。

■読者が感情移入しやすい地味なヒロイン・光希

 また、主人公の光希が、いわゆる没個性的な女の子であることも、重要なポイントだと紙屋氏。

「同時期に『りぼん』で連載されていた『こどものおもちゃ』(小花美穂)や『天使なんかじゃない』(矢沢あい)の主人公はものすごく個性の強い女の子でした。一方、光希にはそこまでのインパクトはありません。『こどちゃ』の紗南のような芸能人でもなければ、『天使なんかじゃない』の冴島翠のように新設された高校を引っ張っていく生徒会役員でもなく、どこにでもいる普通の女の子。だからこそ、読者が感情移入しやすい作品に仕上がっているのかもしれません」

 現在は「Cocohana」(集英社)で続編の『ママレード・ボーイlittle』が連載中だ。こちらは、再婚した両親のもとに誕生した子どもたちが主人公。つまり、光希と遊の腹違いの妹・弟の物語という、これまた仰天な設定。しかし紙屋氏は「2018年の今なら、十分通用する」という。

「『ママレード・ボーイ』の設定がぶっ飛びだったのは、あくまで90年代の話です。『little』ももちろん、斬新な設定だとは思いますが、現代社会の家族形態は多様です。連れ子同士が一緒に暮らすステップファミリーも、今では珍しくもなんともありません。そういう意味で『little』は、現代社会に順応した作品といえるのではないでしょうか」

 ちなみに、作者の吉住渉は、筑波大付属中学・高校を経て、一橋大学を卒業。その後、大手電機メーカーのNECで働いていたエリート。本人の生い立ちが影響しているせいか、光希と遊の両親はそれぞれ、商社、銀行、洋酒メーカー、化粧品会社に勤めるバリキャリ家庭。90年代の時点で、現行の男女雇用機会均等法を意識していたとしてもおかしくない。

 実写化されても、誰もその設定に突っ込まないという状況をみると、ようやく時代が『ママレード・ボーイ』に追いついたのかもしれない。
(中村未来/清談社)

最終更新:2018/04/28 18:00
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