育児の温度差が「産後クライシス」を生む? 専門家に聞いた、夫を男脳から「父親脳」にする方法
では、妻の妊娠・育児期間中、夫はひたすら耐え忍ぶしか道はないのか? 産後クライシスで関係にヒビが入る夫婦とそうでない夫婦について、小谷氏は「夫が妻にとって“敵”となるか、一緒に子どもを育てる“同志”となるかが分かれ目だ」と話す。
「夫が子育ての同志になる」とは、どういうことだろうか? 実は、子育てモードに入った男性も、脳に変化が表れるのだという。
「たとえば、妻の妊娠中に父親としての自覚に目覚めた男性は、テストステロンという攻撃性を増すホルモンが3分の1に減少することが報告されています」
ただし、妊娠・出産を経験することで脳が変化する女性とは異なり、男性が「父親脳」になるには、周囲の環境や自らの心がけが必要になってくるという。
「日本ではいまだに男性が育児休暇を取ると白い目で見られることが多いですし、父親が育児に集中できる環境が整っていません。そうした中で夫が父親としての自覚を持てないままでいると、夫婦の意識に大きな差が出てしまうのです」
男性の脳は職場では戦闘モードになるため、帰宅したらクタクタで、子育てに参加するどころではなく、わが子の泣き声すら煩わしくなってしまう。しかし、妻としては産後の不安定な時期こそ夫の協力を得たい。それなのに、協力どころか「俺の飯は?」なんて言われた日には、腹立たしいことこの上ないだろう。
「さらに、『泣き声がうるさい』などと夫の不満の矛先が子どもに向かってしまうと、妻は『子どもを守らなくては』という意識が働き、夫のことをより外敵と見なしてしまうのです」
■産後クライシスを迎える前に、知っておくべきこと
夫と妻が“同志”になるためには、小谷氏は「夫も妻の妊娠中から“わが子”と触れ合うことが大切」だと言う。
「たとえば、社会保障が手厚いことで知られるフィンランドは、妊娠中から夫婦で参加できるプログラムが充実していたり、男性の育休取得率も8割になります。こうして、妊娠中から男性が『父親』になれるように促していくことが大切なのです。日本では、まだまだ男女の役割が固定化されたままなので、行政レベルで問題を改善していくしかありません」
性別役割分担意識の改善は、近年、社会における女性の権利向上といった視点で語られることが多い。だが、家庭内での夫婦の関係性においても、こうした意識改革が必要なのだ。
「“イクメン”といった言葉が話題になるなど、今の日本社会は男女の固定化された役割が変化していく過渡期。そうした中で、妊娠・出産に伴う女性の体の変化についても、多くの夫婦が知っておく必要があるのではないでしょうか」
父親・母親になるにあたって、お互いの脳の変化についてあらかじめ知識を得ておけば、「産後クライシス」も回避できるのではないだろうか。
(松原麻依/清談社)