『花より男子』の名場面&決めゼリフから考える、『花のち晴れ』の“いただけない”点
一方、『花晴れ』では、ヒロイン・江戸川音(杉咲花)が神楽木晴(平野紫耀)を「肉で殴る」シーンが登場する。これは同名の原作漫画通りの設定で、原作ではコントラストも明確でインパクトあるシーンなのだが、実際に映像を見ると、なんだか物足りない。
夜の暗いシーンで、「高級肉の大きな肉塊で殴る」ことによって、引きの画が「なんか茶色い固まり? で殴っている」くらいにしか見えないのだ。原作の「肉殴り」も肉塊だったが、ドラマでは「手から落ちそうになるくらい大きな肉」と杉咲花が会見で語っているように、大きい肉を用意してはいるが、画的インパクトが非常に弱い。
肉で殴るなら、原作と同じ肉塊で、大きさを「盛る」よりも、せめて「骨つき肉」など画的にわかりやすいものにしても、よかったのではないだろうか。
さらに、つくしの「ありえないっつーの!」に匹敵する、音の決めゼリフ「しょうもない!」も、杉咲花の台詞回しがなめらかでナチュラルであるためか、溜めがなく、決めゼリフ感が出ない。もしかしたら高い演技力がアダとなっているのかもしれない。
また、ヘタレの晴が勇気を奮い起こし、「英徳学園を守る」ためにチンピラに立ち向かうシーンも、いただけない。
校門前で女生徒がチンピラにからまれているとき、見て見ぬフリをする晴に対して音が暴言を吐き、自ら救いに行くのだが、「女生徒、校門前でチンピラにからまれるの図」も、「ヘタレな晴がよろけたことで偶然当たったラッキーパンチからの、つられて倒れるチンピラ仲間の図」も、ドラマ的、漫画的、さらにコント的ですらない、中途半端な陳腐さが拭えないのだ。
リアリティの有無や原作の再現度について「ドラマなんだから、そう目くじら立てなくとも」という指摘はよくある。自分もこれには同感だ。
特に少女漫画原作のドラマにリアリティなんてなくていいと思うし、原作通りに作ることが最善とも思わない。でも、だからこそ、もっと徹底したベタで良い、ドラマとしてのワクワク感、キラキラ感をきっちり作り出してほしいと思うのだ。
『花晴れ』の話題は少なくとも現時点では、「豪華なセット」「肉の大きさ」「道明寺の登場」などばかりで、ドラマの世界観に作り手が浸っている様子も、楽しみ尽くす覚悟も感じられないのは、どうにも寂しい限りだ。
(田幸和歌子)