たけし、SMAP、のん……“独立トラブル”が続出する芸能界の「いびつな構造」
では近年、芸能人のトラブルが増えているのはなぜだろうか? 河西弁護士によると、2つの原因が考えられるという。芸能人口の急増とメディアの変化だ。
「ここ10年ほど、地下アイドルの存在により、芸能人口が急増しました。それに伴い、トラブルや裁判も増えています。大物芸能人のトラブルは大きく報じられるので目立ちますが、実際には、所属タレントにある程度のお金を払っている大手事務所のトラブルは少なく、中堅以下の事務所のトラブルが圧倒的に多いのです。そして、かつては圧倒的な力を持っていたテレビの影響力が低下するとともに、ネットメディアが台頭してきたため、芸能人が芸能事務所に所属しなくても表舞台に出られるようになりました。それで、より独立しやすくなったといえます」(河西弁護士)
今年2月、公正取引委員会(公取委)が、芸能事務所が芸能人らとの契約の中で、移籍制限など不利な条件を一方的に設けることは独禁法違反の恐れがあるとの報告書をまとめた。また、それを受けて音事協が、所属事務所側に圧倒的に有利な内容となっている「統一契約書」の見直しを検討するとの報告書を公開した。河西弁護士は、こうした動きの背景には、世間の注目度も関係しているという。
「SMAPやのんさんなどの件が大きく取り上げられたことで、世間の注目度が高まりました。過労死の問題や働き方改革で日本全体として人の働き方に関心が集まっていることもあります。それによって、公取委が動いたとも考えられるでしょう」(同)
公取委の動きについては、星野氏も次のように述べる。
「業界健全化のためには、公取委の介入は必然ですし、日本でもアメリカのように芸能事務所を規制する専門の法律が必要だと思います」
河西弁護士も法律は必要と考えているが、成立するまでには相当の時間がかかるという。それでも、芸能事務所の影響力が今よりも弱まる可能性を示唆している。
「最終的にはアメリカのようなエージェント制が導入されることになるでしょうが、まだすぐにという段階ではありません。芸能人の管理や品質保証という事務所の機能は無視できないですし、ギャラ交渉や売り込みといった部分を事務所が担うことによって、芸能人が芸能活動に集中できるという面もあります。事務所と敵対することは芸能人にも不利益になりますので、“協働”、つまりお互い協力していくべきだと、我々としては考えています」
ファンや一般の視聴者としては、才能ある芸能人が事務所トラブルなどに巻き込まれず、のびのびと活躍して楽しませてほしいと願っている。法律の制定などによって、芸能人と事務所が対等な関係を築くことができるようになり、今後の芸能界の発展にもいい結果をもたらすことを期待したい。