カルチャー
『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』インタビュー・後編

「取り返しのつかないオナニーをしている」死を見て興奮する“わたし”の苦しさとは

2018/04/10 16:00

ペス山 それまで、何人もの男性とプレイしてきて辟易していたので、期待はしないようにしていました。いやあ、舐めてました。最初の一撃で、「ちょ! まって!」とか言ってしまいましたもん。そうすると、「待ってじゃねえよ」と、また一撃。すべて容赦しないんです。特に膝蹴りはキツかったです。糸が切れたように、地面に吸い込まれるように倒れこみました。そんなふうに殴られている間、「ああ、これって“好き”ってやつだなあ」と、自分が恋に落ちたことを実感しました。

 2時間のプレイを終えると、2人の距離は縮まり、まるでピロートークのように事後の余韻に浸った。そして「ハグ、しない?」と持ちかけるペス山さん。彼は抱きしめ、言った。「会えてよかった」

――女性でも男性でもない、“ペス山さん”自身が受け入れられたのだということが、読者であるこちらにも伝わってきました。

ペス山 このとき、抱きしめられながら大泣きしました。「うわあ――――! 今までつらかったああああ!」と。わたしは妄想の中で自分のことを、男でも女でもない、某ゲームのモンスターとして登場させているんですが、そんな“私”をそのまま「受け入れられた」気持ちで胸がいっぱいだった。そこが嬉しかったんです。

――彼と出会って以来、性癖や性自認に変化はありましたか?

ペス山 ストライクゾーンが広がりました! 以前はBLの普通のセックス描写に興味はありませんでしたが、「セックスもいいじゃん」と読めるようになったり。すごい進歩です!

――ややこしい事情を抱え、常に死を意識していた中で、「受け入れられた」と思えたことで、自身に希望が持てるようになったのでしょうか。

ペス山 そうですね。「生きていてはいけない」とまで思ったこの性癖は変わりませんが、ゾーンが広がったことで、「生きていちゃいけない、なんてことはないな」と思えるようになったのは大きいですね。私は友人に恵まれたこともあって、いろいろな面で救われたけど、ひとりでは這い上がれなかった。そういったこともひっくるめて、“奇跡”だったと思います。

(文=有山千春)

ペス山ポピー(ぺすやま・ぽぴー)
新潮社のWEBマンガサイト『くらげバンチ』にて
本作『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』を連載中。

最終更新:2018/04/10 16:00
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