「触られるのは嫌だ」と言う権利はある! “痴漢抑止バッジ”の効果と、その後
松永さんは今後、バッジの普及に加えて、中学生・高校生に対して痴漢から自分の身を守るための教育をしたいとも考えている。
「バッジをつけていても、痴漢に遭う可能性はゼロではありません。バッジが見えないかもしれないし、加害者の視力によっては『私たちは泣き寝入りしません 痴漢は犯罪です』の文字が見えにくい場合もあります。だから、バッジでの痴漢の抑止と、痴漢に遭ってしまった時の対処方法の両方が必要だと考えています」
そして、バッジの有無にかかわらず、痴漢抑止のために伝えていきたいことがあるという。
「もし電車内で触れるなど、痴漢に遭ったのでは――と感じたら『当たっています。どけてください』と言うように伝えたい。警察から『痴漢です』と大きな声を出すように指導されることがありますが、加害者と周りの2〜3人に聞こえる程度の声で十分です。また、『痴漢です』と言うことは『あなたは犯罪者です』と言うことで、決めつけになってしまうし、『冤罪だ』と主張されると、周りの人も助けづらくなります。でも『当たっている手をどけてほしい』のは事実。これなら『痴漢!』よりは言いやすいですよね」
確かに相手に面と向かって「痴漢」だと言うのは、冤罪を引き起こすかもしれないと思い、声を上げるのをためらうケースもあるだろう。
「『これは痴漢かな? 偶然、手が当たっただけかな?』と考える必要はありません。加害者はその迷いにつけ込み、どちらとも取れるような触り方をします。それを繰り返しても何も言ってこないとわかったら、下着の中に手を入れてくるなど、エスカレートすることも。その状態になると、怖くて声が出せなくなります。だから、早く声を上げる必要があるのです」
「どけてください」の一言が言えない理由を、松永さんは教育の不足だと考えている。
「私たちには、嫌な触られ方をしたら『嫌だ』という権利があります。けれど、これまで大人は子どもに、そのルールを伝えてきませんでした。教えなければ、子どもは被害に遭っても『嫌だ』と言えません。特に、子どもが知らない大人に対して言うのは難しいです。将来的には、子どもたちへ『NOを言う権利』を伝えるワークショップを行いたいですね」
15年に、ひとりの女子高生と彼女を支援する数人の人たちから始まった痴漢抑止活動。バッジで痴漢から被害者を守り、デザインコンテストで問題をシェアする。「性暴力に対してNOと言う」ことに対する理解と共感の輪が、世代や性別、立場を超えて、少しずつ広がっているのが感じられた。
(谷町邦子)