「宗教自体が悪いとは言い切れない」母親に信仰を強制された“二世信者”の苦悩
いしいさんは5歳のころから、熱心な信者である母親に連れられて、エホバの活動に参加していたという。そして、娘とともに楽園で暮らすことを夢見る母のもと、厳しい掟を守りながら生活を送っていた。
「信者の禁止事項は多岐にわたります。特に、偶像崇拝・淫行・血の誤用(他人や動物の血液を体内に取り入れること)などは厳しく制限されていましたね。淫行には婚前交渉も含まれていて、もしその掟を破ると“排斥”になって、ほかの信者や、同じく信者である家族との接触や会話を禁止されてしまいます。高校生の時に、気になっていた男子から告白されたことがあるのですが、付き合ったら母親がどんな行動に出るかわからなかったので、断ってしまいました」
ほかにも、異教の行事であるクリスマスや誕生会、七夕まつりなどの祝い事への参加も禁止。偶像崇拝にあたるので、校歌や国家を歌うのも禁止。また、聖書には「争いを避けなければならない」と書かれているため、運動会の応援合戦に参加することも禁止されていたという。
「校歌斉唱の時は、みんな起立しているのに自分だけ座りっぱなしだったり、クラスの行事の時にも自分だけ机に座ってじっとしていました。そうしていると、やっぱり学校では浮いちゃうから、そのうち自分からほかの人と関わるのを避けるようになっていきました。もっとも、エホバでは信者以外の人のことを“世の子”と呼んでいて、必要以上に仲良くすることは禁止されていたんですけどね」
■宗教自体が悪いとは言い切れない
掟だらけの日々は、いしいさんの学生時代に暗い影を落とすことになった。しかし、それでもいしいさんは「宗教そのものを否定するつもりはない」という。
「エホバは『争いを避けるべき』という考え方なので、少なくとも私の周りの信者たちは、基本的には穏やかで優しい人たちばかりでした。宗教自体が悪いとは言い切れないけど、二世として活動させられていた時は、つらいことも多かった。正直、どこに罪をもっていけばいいのかわからないんです」
現在いしいさんは宗教から離れているが、同じ境遇の二世の中には、そのまま洗礼を受け、信者として活動を続けている人もいる。
「エホバの信者は奉仕活動などを優先しないといけないので、正社員として働くのも難しいし、掟も多いので、それ以外の場所で生きていくこと自体が、厳しいのではないかと思います。それに、正しいこととダメなことが明確に決まっていて、その通りに暮らしていれば幸せが保証されているというのは、ある意味、葛藤が少なくて楽な部分もあると思います」