中学受験は母を狂わせる!? 「名簿にいない子が入学式にやって来る」騒動はなぜ起こるのか?
もう1つ、こんな話を聞いたことがある。同じ小学校で同じクラスの女の子2人組がいた。仮に愛ちゃんと紗季ちゃんということにしておこう。2人とも中学受験生である。特に子ども同士は仲が良くも悪くもなかったのだが、愛ちゃんママは紗季ちゃんママへの対抗心が湧き出てしまい、どうしようもない気持ちに襲われていたという。娘である愛ちゃんを使って「紗季ちゃんの偏差値」「志望校」「勉強方法」を探らせては一喜一憂していたのだ。
やがて紗季ちゃんがF女学院を熱望校にしている情報をつかんだ愛ちゃんママは、共学志望だった愛ちゃんを、F女学院志望とするように誘導。そして、紗季ちゃんママと会うたびに、こんなことを言うようになったという。
「知ってる? 今、F女学院って内部で問題が多いらしくて評判が悪いみたい」
「今年はF女学院の倍率が高くなるって……」
また、紗季ちゃんママの「あら、愛ちゃんもF女学院志望なの?」という問いかけに、
「とんでもない! ウチは紗季ちゃんのように頭良くないから~! 無理無理!!」
と答えるなど、紗季ちゃんママを油断させるようにも仕向けていったそうだ。
そして、6年生の冬。入試が終わった合格発表の会場には、勝ち誇る愛ちゃんママの姿があった。校名入りの封筒を持って無邪気に喜ぶ愛ちゃんの元に、手ぶらの紗季ちゃんが駆け寄り、
「愛ちゃん! すごいよ!! 私はダメだったけど、愛ちゃん、おめでとう!!」
と。そして、傍に来た紗季ちゃんママが愛ちゃんママにこう語りかけたらしい。
「おめでとう! 良かったね」
そのまま、2人が校門に向かって去っていく様を見ながら、愛ちゃんママは、人の幸せを喜べる紗季ちゃん母娘に対して、「負けたなぁ……」と呟いたそうだ。
中学受験は“母と子の受験”。それは時として、残酷なまでに己の“黒い思い”を鏡のようにして、自分自身にも見せてしまう。そんな“黒い思い”が、中学受験終了後に霧のように晴れる人もいれば、子どもの大学受験に至るまで持ち続ける人もいる。
我が子の“受験”というものは母にとっては、自分自身の生き様やら本当の人柄が如実に出てしまう、ある意味、とても怖い物なのだ。
(鳥居りんこ)