「あれはレイプじゃない」タランティーノ、ポランスキー擁護の音源流出で、いよいよピンチ
ワインスタインのセクハラ・性的暴行が暴露されたのは昨年10月5日だったが、ワインスタインと数多くの仕事をしてきたタランティーノは、すぐには声明を出さなかった。10月13日になり、女優のアンバー・タンブリンがインスタグラムに「友人のタランティーノと昨夜、食事をしたの。彼からこのメッセージをみんなに伝えてほしいと頼まれました」として、「25年来の友人であるハービー・ワインスタインの件について、自分の感情や気持ちを整理するのに数日かかる。公式の声明はその後に出す」と、彼の言葉を紹介。このワンクッションを置いてから、自分の気持ちを発表した。
タランティーノは10月19日に米紙「ニューヨーク・タイムズ」で、「自分が止めなければいけなかったと、重々わかっていました。よくあるうわさ、よくあるゴシップ以上のものだったから。人づてに聞いたんじゃない。彼がそういうことをよくしていたのを、知ってたんです」と懺悔。「知らなかった」「うわさには聞いてたけど、こんなにひどかったなんて」「知ってたら止めていた」と言う俳優が多い中、素直に「知ってたけど、何もできなかった。ごめん」と謝ったタランティーノは、被害に遭った女優たち同様、権力におびえて声を上げられなかったのだろうと見られ、「正直だ」と評価された。
一方で、「うまく立ち回っているだけでしょ」「大きな権力にビビッて何もできなかった、無力でかわいそうな男を演じているだけ」「足フェチのマゾ男だから、下手に出るのはお得意なんだろう」と批判する人も、もちろんいる。
そんなタランティーノが今、15年前の発言により最大のピンチに立たされている。ポーランド出身のユダヤ系監督ロマン・ポランスキーが、1977年に当時13歳だった少女モデルを強姦した容疑の裁判で有罪判決を受けた件について、タランティーノが「あれはレイプじゃない。なぜなら、13歳の少女もセックスしたくてしたのだから」と主張しているラジオ番組の音源が再びネット上に流れたからだ。
タランティーノは03年11月、過激な発言で知られるハワード・スターンの人気ラジオ番組『ザ・ハワード・スタン・ショー』に出演。ハワードに、「俺には理解できないんだよね。なぜハリウッドは、この狂人を容認するのか。13歳の少女をレイプした監督を」とポランスキー監督の話を振られ、「彼は13歳の子をレイプしたわけじゃないよ!」と声を荒らげて否定した。
そして、「あれは法的に罰せられる制定法上の強姦なわけで……未成年とセックスしたのが問題で、レイプじゃない。自分にとってレイプという言葉は、暴力的なイメージ。乱暴に押し倒しすような、この世で最も暴力的な犯罪のひとつを指す。だから、そう簡単にレイプなんて言葉を使っちゃいけないんだ。“人種差別主義者”ってレッテルを貼るのと一緒で、そうそう気安く使っちゃいけない。慎重に使うべき言葉だ」とまくし立てるように言い、「彼が有罪なのは、未成年とセックスをしたことに対してだけ」と真っ向から反論した。ちなみに事件時、ポランスキーは44歳だった。
この言葉に、アシスタントの女性パーソナリティ、ロビン・クウェイバーズが驚き、「そのセックスは、彼女が求めていたものじゃなかったけど」と諭すように言うと、タランティーノは「違うよ! まったく違う! 彼女自身がセックスしたがってたんだ。交際もしてたんだぜ」と反論。
ゲスな発言で知られるハワードもこれにはあきれ果て、「ちょっと待ってくれよ。大の大人が13歳の少女とセックスをする。これは過ちだって、きちんと理解しているよね?」と突っ込み、ロビンも「その少女に酒と薬を大量に与えちゃって(レイプしたんでしょ)……」と、改めてひどい犯罪だと主張したのだが、タランティーノは「いやいや、彼女はノリノリでセックスしたんだって」と、あくまで少女が求めていた性行為で、強姦ではなかったと、最後まで言い張っていた。
ポランスキーは、アメリカで1977年に有罪判決を受けた後、保釈中にフランスへ渡り、市民権を取得して以来、アメリカには戻っていない。02年に『戦場のピアニスト』でアカデミー監督賞を受賞したが、このアカデミー授賞式にも現れなかった。会場では不在のポランスキーに拍手喝采が起こり、このとき負けたマーティン・スコセッシ監督も、当のレイプ事件の現場となった邸宅の持ち主だったジャック・ニコルソンも、プレゼンターのハリソン・フォードも、女優のメリル・ストリープも、立ち上がって拍手を送っていた。タランティーノもこの受賞について突撃取材を受け、「クールだと思うよ」と祝福していた。前出のハワードは、「13歳の少女をレイプ(しかもアナルレイプまで)した性犯罪者にアカデミー賞を贈るのはおかしいんじゃないか」と考え、タランティーノに、その疑問をぶつけたのだ。
このラジオ番組の音源を、女性向けのウェブサイト「Jezebel」が公開。「正直者のように好意的に受け止められているが、タランティーノはとんでもない男」「権力者を盲目的に信じ、従う。女性の敵」という印象を与える記事を掲載。タランティーノは現地時間8日、映画レビューサイト「IndieWire」を通して、ポランスキー事件の被害者であるサマンサ・ゲイマーに謝罪する声明を発表した。
「『ザ・ハワード・スタン・ショー』での、サマンサ・ゲイマーに対する自分の傲慢な発言について、公に謝罪したい。彼女が受けた犯罪についていろいろと臆測した上で発言してしまった。15年たち、自分がどれだけ間違っていたかを認識している。ゲイマーさんは、ロマン・ポランスキーにレイプされたのだ」としおらしく過ちを認め、「ハワードがポランスキーを話題に上げたとき、挑発的なイメージを保つため、間違っているにもかかわらず“悪魔の提唱者(わざと反論する人のこと)”を演じてしまった」と弁解。「ゲイマーさんの気持ちなどこれっぽっちも考えずに発言してしまい、本当に申し訳ないと思っている。ゲイマーさん、私は無知で、無神経で、何よりも間違っていた。サマンサ、ごめんなさい」と結んだ。
ハリウッドのセクハラ・パワハラ騒動の中、そつなく立ち回ってきたタランティーノだが、現在、最大のピンチに立たされている。もともと「あと2作で引退する」と宣言しており、そのうちのひとつはR指定の『スター・トレック』シリーズになる可能性大だと伝えられているが、実現できるのだろうか?