『わろてんか』『不能犯』松坂桃李、生真面目青年からダークヒーロー魅せる幅
真面目すぎて融通がきかず、空回りしているがどこか憎めない。そんな男を演じさせたら松坂桃李の右に出るものはいないだろう。先日まで出演していた連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『わろてんか』(NHK)で演じていた北村藤吉もそんな男だった。
真面目すぎて融通がきかず、空回りしているがどこか憎めない。そんな男を演じさせたら松坂桃李の右に出るものはいないだろう。先日まで出演していた連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『わろてんか』(NHK)で演じていた北村藤吉もそんな男だった。
『わろてんか』は吉本興業の創設者である吉本せいをモデルにした北村てん(葵わかな)を主人公にしたドラマだ。松坂が演じたのは、てんの夫・籐吉。物語は明治末から始まり、てんは籐吉と結婚、やがて女興行師として成長していく。思い込んだら周りが見えなくなる藤吉を笑顔で支えるが、子どもが生まれても家庭を顧みずに「家族のため」と言い訳をしながら、寄席小屋の数を増やし、優秀な芸人を呼ぼうと接待に熱を入れる藤吉へ次第に腹を立てるようになっていく。
籐吉のモデルとなった吉本吉兵衛は放蕩息子で、遊んでばかりのダメ男だ。芸能興業を自分でやろうとして借金を作り、家業を廃業に追い込んだという。『わろてんか』では、同じ状況をかなりマイルドに描いていた。亡き父が作った実家の米問屋の借金を返すため、仲間から紹介された仕事をするものの騙されて借金を作り、藤吉は家業を倒産に追い込んでしまう。
朝ドラということもあって、浮気だとか博打に狂っていたと言うような欠点は籐吉には盛り込めなかったのだが、そのかわり「真面目で頑張ってるけど、周りが見えずに失敗して周りに迷惑をかけてしまう」という、愛すべきダメ人間ぶりが籐吉にはあった。このダメさは、松坂桃季が今まで演じてきた役柄とどこか重なる。
松坂の俳優デビュー作は、特撮ヒーロードラマ『侍戦隊シンケンジャー』(テレビ朝日系)で演じたシンケンレッドだ。この作品が戦隊ヒーローモノとしてユニークだったのは、普通ならば平等な関係のはずの戦隊ヒーローなのに、レッドだけが「殿様」という絶対的な立場を持っていたことだ。そのことによって横の仲間同士のつながりとは違う主従関係が生まれ、それがドラマの面白さを盛り立てていた。
松坂はこのシンケンレッドを好演。後に松坂は、大河ドラマ『軍師官兵衛』(NHK)で黒田長政という大名を演じることになったが、今考えると正義感が強くて真面目な「殿様」という立ち位置は、その後の俳優・松坂桃李の魅力を的確に言い現していたと思う。