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『陸王』『トドメの接吻』山崎賢人、“漫画原作モノイメージ”を払拭する2つの芝居

2018/01/22 21:00

 筆者が山崎のことを意識したのはドラマ版『デスノート』(日本テレビ系)の天才探偵・Lを演じたあたりからで、原作のイメージはもとより、過去の映画版で松山ケンイチが演じた際のビジュアルが完璧だったため、どうにも二番煎じ感が強かった。

 その後、少女漫画原作・映画での連投は、見ていていたたまれなく、事務所はもう少し作品を選べばいいのにと思っていたが、昨年は「週刊少年ジャンプ」(集英社)の連載作品の映像化に挑戦し、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一部』『斉木楠雄のΨ難』で、今までとは違う魅力を獲得しつつある。特に後者はコメディだったこともあって、今までとは違うファン層の開拓に成功した。同時に、ドラマでは『陸王』という王道作品に出演したため、今後は今までとは違う山崎が見られるのではないか、と思っていた。しかし、そこで始まったのが、クズのホストを演じる『トドメの接吻』(日本テレビ系)とは予想外だった。

 日本テレビ系の日曜午後10時30分から放送されている本作は、金のためなら女を容赦なく騙すホストのエイト(山崎賢人)が、門脇麦演じる謎の女にキスをされ、突然命を落とすところから始まる。死んだと思ったエイトだが、意識を取り戻すと、時間はなぜか7日前に巻き戻っていた。エイトは謎の女から逃げようとするものの、何度も女に殺されて時間が巻き戻ってしまう……。いわゆる『時をかける少女』(新潮社)などを筆頭とするタイムリープ(時間逆行)ものだ。

 物語のテンポはよく、いわゆる夜のネオンが似合うオラオラ系ホストドラマの世界観とSF的世界観の融合がユニークで、90年代に同局の土曜ドラマで放送されていた『サイコメトラーEIJI』や『君といた未来のために~I’ll be back~』といったSFテイストの青春ドラマを思わせる。

 喜怒哀楽が激しい芝居の持つ力

 エイトは、女を食い物にするホストで、目的のためなら、どんな女とも寝て恐喝も平気で行う最低の男だ。だが、実はそうやって貯めたお金は親が作った借金の返済に当てられており、弟が行方不明になった事件を引きずっていることも暗示され、根っからの悪人ではない。実は複雑な内面を抱えたキャラクターであり、しかしそれ以上に大変そうなのは、すぐに死んでは生き返る人間の気持ちを演じることだろう。

 こういう異常な状況に放り込まれた人間を演じるのは、普通の青年を演じることとは別の演技力が問われる。それは、世界観を視聴者に信じさせ、物語というジェットコースターに乗っける圧倒的なスピード感だ。その点で、今作で見せる山崎の喜怒哀楽が激しい芝居には、「時間が巻き戻る」という設定に違和感を持つより先に、続きをどんどん見たいと思わせる強引な推進力がある。

 『陸王』で演じた繊細な青年役のようには評価されないかもしれないが、作品世界に溶け込んで、物語のナビゲーターに徹している山崎の演技はもっと評価されてもいいだろう。荒唐無稽なドラマに視聴者をうまく乗せてしまう山崎の華のある演技は、見応え満載である。
(成馬零一)

最終更新:2018/01/22 21:00
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