カルチャー
『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』著者・高木瑞穂氏インタビュー

「1人200万円で売買」「泳いで逃げた少女がいる」――日本に実在した“売春島”の真相

2017/11/17 15:00
『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社)

 「島から泳いで逃げた売春婦がいる」「警察や取材者を遠ざけるため客は、みな監視されている」「売春の実態を調べていた女性ライターが失踪した」……。三重県・伊勢志摩の伊勢湾に浮かぶ小さな離島、渡鹿野島(わたかのしま)は、性産業で栄えてきた歴史を持ち、“売春島”として都市伝説のようなウワサがまことしやかに囁かれてきた。その実態を明らかにした『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社)を上梓したフリーライターの高木瑞穂さんに、その“真相”を聞いた。

■女の子を騙して連れてきて搾取

――まず初めに、高木さんが“売春島”のルポを書いたきっかけを教えてください。

高木瑞穂さん(以下、高木) 1990年代頃からインターネット上に、“売春島”と呼ばれた渡鹿野島にまつわるオカルトめいたウワサが蔓延していました。昨年5月に、この島の目と鼻の先にある賢島が伊勢志摩サミットの開催地になったことで、再び“売春島”が注目を集めました。週刊誌などは、島での売春をタブー視するような取り上げ方をしていましたが、僕は島の歴史を真面目に調べてみたいと思った。実は、5年前にも島を取材する機会があって、売春に関与していたという元ヤクザの人身売買ブローカーX氏と知り合っていたこともきっかけのひとつです。

――本書では、そのX氏をはじめ、複数の関係者に取材されています。実際に、島ではどのように売春行為が行われていたのでしょうか?

高木 島のホテルには「宴会」という独特のシステムがあります。そこに派遣されてきた女の子と、酒の席で仲良くなった客は、女の子のアパートに行ってセックスする。これが、売春島ならではの名物コースです。女の子には、客が支払った料金の何割かが支払われますが、かつてはその取り分からもヤクザにカネが渡る場合も多くあったようです。

――本書内で元ヤクザのX氏は、内地から連れてきた女性を島の置屋に売り飛ばし、荒稼ぎした“手口”を告白しています。

高木 90年代に暗躍したというX氏は、街でナンパした家出少女を自分に惚れさせて、「自分のために稼いでくれ」と言って島に売り飛ばしたといいます。その際、島の置屋からは紹介料として1人200万円がX氏に支払われました。女性の方は、初めから200万円の借金を背負わされ、タダ働きを強いられることになり、オヤジ相手に毎晩カラダを売っても、なかなか借金は減らない。借金を完済するまでは、決して島から出られません。X氏は、この手口を使って、98年に足を洗うまでに30人以上の女性を島に送り込み、なけなしの女の取り分まで送金させるなどして2年間で1億円も荒稼ぎしたと告白しています。彼のようなブローカーが噛んでいた90年代には、こうして女の子を騙して連れてきたり、搾取したり……という事実も、確かに存在したようです。

――最盛期の70年代後半~80年代は、メインストリートは黒山の人だかりだったとか。

高木 当時は働く女性も若く、小さな島に60~70人ほどの売春婦がいたと聞いています。特に、島の顔として栄えていた旅館の「つたや」には、若い女性が20人も働いており、年間5億円近い売り上げになったそうです。バブルの頃は「ドラム缶に札束があふれていた」なんて証言もありました。X氏が暗躍した90年代にも、そういった恩恵は続いていたんです。

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