カルチャー
『早稲女同盟×桃山商事-<語る女>と<聴く男>の共闘に向けて-』イベントレポ

「話が通じない男」はなぜ生まれるのか? 男女の“コミュニケーション不全問題”を紐解く

2017/10/20 18:20

『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)

 イベント後半では、話題は「語る」という行為に及んだ。早稲女同盟発刊の「いばら道」は、「セックス」「仕事」「アイドル」など、1つのテーマについて各執筆者が自分の言葉で語っていく、という形式を採っているという。旧来的なジェンダー観に根づいている「男=語る側」「女=聴く側」という関係性を逆転させたところに同誌の面白さがあるのだろう、と清田氏は指摘する。

 しかし早乙女氏によれば、男性が、例えば『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)のようにオチのある話を好み、面白さを競い合うのとは違って、「順番に語るという同じ形式を取っていても、お互いを肯定し共感の和が広がっていくような癒やし効果を得ている」そうだ。「読者からも『これは私の話です!』という声が多く、どの作品に対しても満遍なく感想が届く。執筆者と読者の枠も外れて、読者だった子が書きたいと言って次号に寄稿してくれることもある」と橘氏。一方、男性読者からは誤字の指摘や作品を点数化して評価するような感想が届くそうで、「競い合いがない世界は男性にはないんですか? それに男の人って友達同士では仕事やプライベートの相談をあまりしない気がする。苦しくなるまで抱え込んで疎遠になった友人もいるし……語ることで楽になることもあるのになあ」と伏見氏は首をかしげる。

 この問いには「友人関係の捉え方の問題かもしれない」と森田氏。「上司や先輩など上下関係なら甘えてもいいが、友人同士はフラットな関係だから甘えられないと考えている。そもそも、男はそんなに自分の弱い部分を語らないものだという思い込みもあるかもしれない」と言う。中高の6年間を男子校で過ごした清田氏は、「ゴミ箱にゴミをシュートするとか、授業中にどれだけ面白い発言ができるかとか、いつでも全裸になれるとか(笑)、自分が勝てることは何かを考え、ひたすらパワーゲームを続けていた」と当時は自身も男性的なコミュニケーションに興じていた経験を明かしつつ、「でもそれは脳の構造の問題などではなく、単に男性は『語り合う』『会話を楽しむ』ということに慣れていないだけではないか』と分析。

 そしてバカリズム脚本のドラマ『架空OL日記』(日本テレビ系)を例に挙げ、ゴールや結論があるわけではなく「わかる~」という感覚を共有することで延々と盛り上がれるOLたちの会話を絶賛した。こうした「シスターフッド」とも呼べる関係は、昨年大ヒットしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』や『カルテット』(ともにTBS系)などでも肯定的に描かれているといい、そうなると同時に巻き起こる男性不要論についても触れられた。

◎男女が「共闘」するためには開かれたパートナーシップが重要

 最後に「男性自身が変わるきっかけは、失恋、失業、病気などのアイデンティティークライシスを経験する“内圧”か、今のままでは自分の立場が不利になっていくという“外圧”のどちらか」と、かつては人の話がまったく「聴けない男」だった自身の経験と併せて語った清田氏。

 「例えばカフェで充実した楽しい2時間を過ごせる男性と、会話はつまらないけれど高い焼肉奢ってくれる男性ならどっちがいいかという話で、おそらく前者の方がいいという女性が多いのでは?」と投げかけると、会場の女性陣も大きく頷く。早稲女同盟の面々も、学生の頃は彼氏の言動にモヤッとしても自分が我慢すればいいと黙っていたこともあったが、そんな一方的な関係を解消し、今では話し合えるパートナーと結婚した人が多いという。

 ここで早乙女氏が「結婚生活に必要なのは『共感』と『共闘』だと思っていて」と今回のトークテーマ「共闘」について切り出す。「共闘」というからには戦う相手がいる。それは家事分担、親戚付き合い、出産、子育て、介護など、その都度発生する現実の問題を指すが、2人がお互いにずっと向き合い「わかる~」と共感し合っているだけでは解決に進まない。

 「夫婦の中だけで閉じない、ということが大事なんだと思う。そのためには、それぞれが精神的に自立して、外に向かって開いている必要がある」と森田氏。また例えば家電1つ買うにしても、「これで好きなの買っていいよ」と男性がお金を出してしまったら、「それはコミュニケーションじゃないし『共闘』とは呼ばないよね」と清田氏は語る。

 そうなりがちな背景には、結婚したら相手の人生を背負わなければという、男性側の根強い規範意識や、それに乗っかる女性の存在もあるだろう。しかし、男女の役割にこだわることなく、純粋に目の前にいる相手に興味を持って「語る」「聴く」というプロセスを積み重ねていくことが、確かなパートナーシップを築く唯一の方法なのかもしれないと思わされるトークイベントだった。

最終更新:2017/10/20 18:43
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