「自死の原因はひとつではない」死にたいと相談されたときにやるべきこと
杉山 もし、身の回りの人から「死にたい」と言われたら、私たちは具体的にどうすればいいんでしょうか?
松本 道徳観や倫理観や先入観などを押し付けて、いかに自殺がいけないことかを説教したり、論破したりすることはやめてほしいです。それから「生きてりゃ、いいことがあるよ!」といった根拠のない安易な励ましも、よくないです。
絶対にしてほしいのは、「死にたい」と言ってくれた人に感謝すること。自殺の直前になると、言わなくなるんですよね。だから「死にたい」と言っているうちは、まだ止められる可能性があって、援助しようとしている人が敵に見えている場合もあるんです。それをあえて言ってくれたのは「この人なら大丈夫」ということで、ありがたい話です。
もうひとつは、「死にたい」という気持ちの背景にある問題を聞くことです。なぜ死にたいのかを知ること。そうすると「お金もないし、お先真っ暗だし、大切な人が去っていったし」と、複数の問題が出てきます。それを全部解決することはできないにしても、少しだけマシにすることはできると思います。聞き出した問題に関して、それを少しでも軽くするのに自分にできることは何なのか、自分にはできないかもしれないけど、どこにつなぐと少し楽になるのかを考えて、しっかり橋渡しをすることが大事です。
杉山 取材をしてみて思ったのは、自死が起きる背景には、いくつもの要素があることです。その中のどれかが和らげば、また違う人生を歩めるかもしれません。
(姫野ケイ)
杉山春(すぎやま・はる)
1958年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集者を経てルポライターに。著書に『満州女塾』(新潮社)、『ネグレクト―育児放棄 真奈ちゃんはなぜ死んだか』(小学館 第11回小学館ノンフィクション大賞)、『ルポ 虐待』(ちくま新書)、『自死は、向き合える 遺族を支える、社会で防ぐ』(岩波ブックレット970)など。
松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年佐賀医科大学医学部卒業後、国立横浜病院精神科、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部附属病院精神科などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神科救急学会理事、日本社会精神医学会理事。『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』(講談社)など著書多数。