カルチャー
ライター・杉山春氏×精神科医・松本俊彦氏対談(後編)

「自死の原因はひとつではない」死にたいと相談されたときにやるべきこと

2017/10/14 15:00
精神科医の松本俊彦氏

 今年8月、上原多香子の元夫で自殺したET−KINGのTENNさんの遺族が、自殺の原因は上原の不倫であると取れる遺書を公開したことが話題となった。前編では、ライターの杉山春氏と精神科医の松本俊彦氏に、自死遺族や自死する人の心理状態について聞いた。後編では、自死がタブー視される理由や、もし周りで自死しようとしている人がいる場合の接し方について語ってもらった。

(前編はこちら)

■依存症や摂食障害、不登校などは、生き延びる手段となっている

松本俊彦氏(以下、松本) 遺族の聞き取り調査を行って気づいたのは、DV加害者の自殺者が、何人もいたことでした。

杉山春氏(以下、杉山) 加害者ですか!?

松本 これもなかなか悩ましい問題で、遺族はDVの被害者でもあります。そして、そのような遺族の中には、加害者が自殺する以前には、DV被害の苦痛を紛らわせ、一時的に心の痛みを止めようとして、アルコールや薬物の乱用、摂食障害やリストカットといった対処行動でなんとか生き延びようとしていた方もいました。見かけは困った行動ですが、短期的には自分を救ってくれる行動であった可能性があります。

杉山 生き延びる手段となっていると。

松本 はい。それから、若者の自殺者の中には、中学時代の不登校経験者がとても多かったんです。しかし、意外だったのは、そうした子どものほとんどが学校に復帰していたことです。一方、僕らが精神科で出会う不登校の子たちは、学校に行かないまま卒業してしまう子が多く、その子たちは生きています。

 もしかすると不登校は自分の身を守るための戦略であり、学校に戻った子たちが亡くなっているというのは、本質的な問題が何も解決しないまま、無理やり学校に行ってしまったためではないかと。そういうデータを集めていくと、大人から見ると逸脱的な行動に、別の意味が見えてきます。つまり、「困った子は、実は、困っている子かもしれない」という理解が進むと、もう少し優しい社会になっていくのではないかと思います。

杉山 若い人には、苦しい理由がやっぱりあるわけですよね。古い世代、高度経済成長期に社会に出ていった若者たちには、椅子がたくさんあった。当時の人たちに取材をしたことがありますが、実はそんなに努力しなくても、社会人になれたように見えました。

 ところが今は、若い人たちが社会に出て行くのにも、ものすごい競争をしながら、やっとひとつの椅子を確保できたと思ったらブラックだった、という例もあります。社会が長期で下り坂になっている社会のあり方と、若い人たちが抱えるつらさは、リンクしているような気がするんですよね。

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