猫島もJ2リーグもキーワードは“よそ者”――自分の知らない日本と出会う2冊
家と会社、家と学校など、日々同じ場所への往復を繰り返していると忘れそうになるが、自分の住んでいるところだけが日本ではない。今回は、「猫」「サッカー」と、1つのテーマをもって日本各地を取材した人々の視点を通して、日本各地の現在と、地域おこしを成功させるヒントが発見できるノンフィクションを紹介する。
■『にっぽん猫島紀行』(イースト新書/著: 瀬戸内みなみ)
「徒歩で一周できるくらい小さくて、人より猫の方が多いといわれるような島」、いわゆる“猫島”。『にっぽん猫島紀行』は、北海道から沖縄まで猫島10島を巡り、島に住む人々のさまざまな思いを取材した紀行レポだ。
CNNが「世界六大猫スポット」と紹介した相島(福岡)や田代島(宮城)、アートの島としても知られる男木島(香川)、17人の住民に対して約70匹の猫が暮らす志々島(香川)――。どの島についても、猫についてだけではなく、その島の史跡や美味しい食べ物を愛らしい猫の写真とともに伝えている。猫好きなら、単純に日本各地の「猫島」の雰囲気を知るガイド本にもなるだろう。
その一方で著者は、全国各地の「猫島」が多かれ少なかれ抱えている猫島の「ジレンマ」にも丁寧に迫る。国内外から、猫を目当てに押し寄せる観光客は、マナーを守る者ばかりではない。そもそも猫が好きではない住民もいれば、観光地化を望まない住民、猫は好きでも、増えすぎてケアしきれない猫たちへの対処法で意見が分かれることもある。「島」という小さなコミュニティにおいて、激しい対立や感情的な摩擦はご法度と言ってもいい、できれば避けたい問題だろう。
しかし、そんなデリケートな課題と向き合ってでも、高齢化、過疎化で消えゆく島の歴史や伝統をつないでいくために、若い世代を呼び込む手段の1つとして、「猫島」という個性を活用しようと試みる自治体や住民たちもいる。
成功しつつある島の試みを例に挙げながら、結びとなる章で語られる「地域おこしには『よそ者、若者、バカ者』が必要」「外部からの刺激が重要なきっかけになる」という考察は、近い将来、より大きな規模で同じ課題に直面するであろう“大きな島国”日本にとって、他人事ではない知見でもある。
■『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版/著: 宇都宮徹壱)
地域振興には“よそ者が必要”と語る『猫島紀行』と、意外にもリンクする(かもしれない)ルポタージュが、北海道から九州までのサッカークラブを取材した『J2&J3 フットボール漫遊記』だ。
メディアで取り上げられる「サッカー」といえば、主には日本代表チームの試合や、海外で活躍するスター選手の活躍、Jリーグやその他の大規模な大会などを思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし本書は、熱心なサッカーファン以外はなかなか触れる機会のない全国のJ2、J3クラブ(※2012~17年当時)の本拠地を巡って、経営陣や選手、サポーターに取材した1冊だ。
長年全国各地のクラブの現状を取材している著者は、“クラブが急速に発展する局面で共通する要素”について語る。東京で公認会計士を務めていた男性が代表になり、瞬く間にJ2昇格を視野に入れるまで駆け上がった鹿児島ユナイテッドFCを例に挙げつつ、地域クラブの発展には“『黒船』となり得る余所者の存在”が不可欠であると見る。J2に降格した静岡の清水エスパルスが、それまで前例のなかった“外様(静岡とゆかりのない)”社長や監督の就任を受け入れて、1シーズンで復活を果たしたエピソードなども、この証左と言える。
試合の観戦記というより、各地のサッカークラブの取材当時の現状に触れ、どんな経緯でJリーグを目指し、スタッフ陣は何を目指しているかという点に重点が置かれている本書。取材を受けた北海道から鹿児島までの18チームは、十分なスポンサードを受けられるわけではない。予算や人手が限られる中で、Jリーグという「上」を目指す各地の人々の挑戦や苦楽が凝縮して描かれているからこそ、あまりサッカーになじみがない読者にとっても、ドラマ性の高いドキュメンタリー群像劇として楽しむことができる。
サッカーに詳しくなくても名前は知っているようなスター選手や有名監督も、地元に密着した身近な選手やスタッフも、同じフィールドに立って勝敗を競う面白さがそこにはある。著者が指摘するように、サッカー観戦は、ニュースなどで見るよりずっと身近な娯楽として日本に定着しつつあるのだろう。元からサッカーを好きな人はもちろん、まったく知らなかったとしても、つい、自分の地元のサッカーチームについて調べてみたくなる。
(保田夏子)