子どもが「パパ、もうやめて」――復縁するも、夫の暴力は止まらず【別れた夫にわが子を会わせる?】
――離婚はしたのですか?
「いいえ、まだです。折り合いがつかないですから。というのも彼、『離婚したくない。まだやり直せる。子どもたちと一緒にいたい』って、電話やメールで伝えてくるんです。私自身、早く離婚したいんですが、調停をしたりして無理に進めようとは思いません。家を知られてますからね。弁護士の書いた主張を読んだ彼がカッとしたら、何をするかわかったものじゃありません。とにかく彼を怒らせないこと。そうして穏便に時が過ぎ去るのを待つしかない。3年たつと、離婚要件が満たされるそうですからね」
――父親のことは、子どもたちにどういうふうに伝えているのですか?
「聞かれたときだけ答えます。ちなみに、上の子に聞かれたときには『ちょっとパパは心の病気なんだよ。心の病気でお薬を飲んだほうがいいんだけど、イライラしちゃうときがあるんだよ』とか、そんなふうに言ってます。下の子はね、まだ小さいし、私が彼に殴られてるのを見てないので、だからあんまり、まだわかってない」
――彼は子どもたちに、田中さんのことをどう言ってるのでしょうか?
「悪く言ってるようですね。面会から帰って来た後、『パパが殴ったのは、ママのせいなんだね』って、上の子が言ったことがありましたから。それを聞いても私、彼のことを悪くは言いません。優しく『ママも悪いときがあるんだよ』って言うだけです」
――離婚が成立しても会わせますか?
「それは続けるつもりです。イギリス人だから子育てには一家言持っていて相談に乗ってもらえるし、教育とか子育てといった点で、いてくれたほうが何かと助かりますしね。夫としてはダメですけど、パパとしての彼は尊重してるんです。別れたからといって、切り離す必要はないのかなって思います」
――最後に、今後の展望は?
「離婚したいという気持ちは、ぶれてないです。愛情は、もはやないです。別に恋人を作ってくれたら楽に離婚できるんですが、そうはうまくいきませんね。だから、事を荒立てずに、穏便に3年待つしかないですね。子どもが元気に育ってくれているのがなんといっても励みになるし、元気のもとなんです。子どもたちのために頑張るしかないですね」
暴力を振るわれ続けても、田中さんの彼への愛は続き、子どもが2人できた。そんな彼への愛情は、もはやなくなってしまった。しかし、田中さんと彼の愛情は、2人の子どもたちに今後ずっと絶えることなく注がれていく。それは間違いないだろう。
西牟田 靖(にしむた やすし)
1970年大阪生まれ。神戸学院大学卒。旅行や近代史、蔵書に事件と守備範囲の広いフリーライター。近年は家族問題をテーマに活動中。著書に『僕の見た「大日本帝国」』『誰も国境を知らない』『日本國から来た日本人』『本で床は抜けるのか』など。最新巻は18人の父親に話を聞いた『わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち』(PHP研究所)。数年前に離婚を経験、わが子と離れて暮らす当事者でもある。