カルチャー
精神保健福祉士・斉藤章佳氏×弁護士・三浦義隆氏対談(後編)

「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が起こる理由

2017/09/16 15:00

――痴漢だけでなく、同時に冤罪もなくすには、何か良い方法はあるのでしょうか?

三浦 容疑者を検挙して有罪にすることを国家が行っている限り、冤罪はついて回る問題です。痴漢がなくなれば痴漢冤罪もなくなるというのは当たり前の話ですが、実質的にはあまり意味のないことです。冤罪をなくすためには、単純に裁判所が厳格に事実認定をすればいい話ですし、そこからさかのぼって捜査機関も、全件微物鑑定するなり、供述頼みではないきちんとした固い立証を心がけることです。どれも、痴漢に限った話ではないですよ。

斉藤 痴漢に関しては、おそらく東京都と公共交通機関が本気になったら、満員電車をなんとかできると思います。自殺予防のためのホームドアは、多くの予算をかけて、ほぼ整いつつあります。でも、痴漢防止に関して目に見える対策は特に何もなく、鉄道会社も乗客に自衛を任せるだけにとどまっているように見えます。これは、痴漢対策に予算を投入することで、どれくらい経済的な損失を防げるのかを考えたとき、自殺予防のホームドアほどはメリットがないからだと思います。

 また、満員電車をなくすには、働き方の改革が必要です。朝と夜のラッシュ時の混雑をもう少し緩和するためには、日本人の働き方自体を変えていくような政策なり施策が必要です。週に何日か自宅でも仕事できるようにするとか、ワークライフバランスの問題とも関連してきますね。

三浦 企業側に何かインセンティブを与えないと、難しいでしょうね。

斉藤 そうでしょうね。当院もそうなのですが、職員は朝9時頃から夜6時頃までの勤務時間に合わせて出退勤します。他業種や公務員も同様です。小池百合子都知事を中心に、2020年の東京オリンピックまでに、日本人の働き方改革を手始めに、痴漢問題を含む満員電車対策をどうしていくかという切り口の話をしていけば、建設的な議論になるかと思います。
(姫野ケイ)

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。また、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。その他、論文多数。

三浦義隆(みうら・よしたか)
千葉県弁護士会所属。おおたかの森法律事務所。主な取り扱い分野は、離婚、労働、相続、交通事故、債務整理、刑事等。

最終更新:2017/09/16 15:00
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