カルチャー
精神保健福祉士・斉藤章佳氏×弁護士・三浦義隆氏対談(後編)

「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が起こる理由

2017/09/16 15:00

精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏

――痴漢をなくすためには、どうすればいいと思いますか?

斉藤 当院に来る性加害者は、自分の痴漢行為や性犯罪を「逮捕されなければ、おそらくずっと続けていた」と言います。加害者やその家族にとって、逮捕というのはもちろん望んでいない出来事ですが、我々には、そこを治療の動機づけの最大のチャンスとして生かしていく視点が求められています。

 本来は、一次予防教育と再犯防止教育をセットで行えるのが望ましいのですが、現状ではなかなか性犯罪の一次予防は難しいです。これからこのあたりの取り組みや研究を性教育分野の専門家とともに協同していきたいと考えていますが、それよりも今は、どうすれば再発防止できるのかが当面の課題かと思います。

三浦 逮捕されるまでやめられないというのは、おっしゃる通りだと思います。痴漢を繰り返して一度もバレたことがなく、周りの誰にも知られていないけど、「これはいけない」と思って、自主的にやめようという人はあまりいないでしょうね。

斉藤 痴漢ではないですが、露出や盗撮、のぞき、下着窃盗といったいわゆる非接触型の性犯罪の人も来ます。接触する性犯罪の場合は顕在化し逮捕されるケースが多いのですが、接触しない性犯罪だと相手に気づかれずに行為を行うことができるのです。こうなると治療につながる機会がなく、膨大に潜在化しているケースがあります。年に1〜2人くらい、「このままでは逮捕されるかもしれない」と自らの危機感から来院するレアケースもあります。

三浦 逮捕自体が初めてという人は、その前の段階で常習性はあったのかもしれませんが、初犯として起訴猶予で終わるケースも結構あります。私が担当する痴漢の案件も約半数は逮捕が初めてという人なんですよ。その後の追跡調査をしているわけではありませんが、初犯でやめている人もかなりいるだろうと推測はできます。

 冒頭のお話にあった通り、失うものの多い人が、かなりいるじゃないですか。「次やったら、本当におしまいだぞ」という状況に追い込まれたとき、そこでやめている人も、ある程度いるのだろうと思います。痴漢の再犯率が高いという話にしても、再犯率というもの自体が、一回裁判の手続きにのって有罪になり、前科がついた人を対象にしています。痴漢だと犯人は起訴猶予になることも多いですから、実は前科1犯になる時点でもう「再犯」の場合が多いんですね。そうすると、それはかなり犯罪性の進んだ人で、再犯率が高いのも無理ないのかと思いますね。

斉藤 犯罪傾向の進んだ人の再犯率が高いという点については、私も同じ意見です。これは、ほかの刑事政策や犯罪心理学の領域でも、前科前歴がなく、これから事件を起こす可能性のある潜在的な層と、初犯の方に関しては、罰による問題行動の修正に比較的効果がある層だと言われています。クリニックに来ているような、かなり常習性のある人に対して、罰や監視のみによる行動変容はあまり効果がないというのは、その通りです。

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