『ハロー張りネズミ』、熱くなりすぎずオシャレになりすぎない“程よい熱”の俳優・瑛太
大きな転機となったのは、坂元裕二・脚本の『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)だろう。本作で瑛太は、小学生の時に妹を同級生に殺されたことが原因で家族が崩壊し、引きこもるように暮らしている青年・深見洋貴を好演。深見は妹を殺した殺人犯の妹・双葉(満島ひかり)と出会い、事件と向き合うことで成長していく難しい役を、説得力のある芝居で演じきった。
本作で共演した満島を筆頭に、『まほろ駅前番外地』の松田龍平、『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)の上野樹里など、瑛太は個性的な芝居をする俳優とペアを組むことが多い。『ハロー張りネズミ』なら森田がそうなのだが、多くの場合、瑛太ではなく共演した俳優のエキセントリックな芝居に注目が集まる。しかし、共演俳優が輝くのは瑛太の受けの芝居が見事だからだ。
瑛太の演技はいい意味で、薄味で微温である。『ハロー張りネズミ』で演じる五郎は「義理と人情を重んじる」と言うが、そこに暑苦しさはなく、どこか飄々としている。だから、盛り上がるところも盛り上げすぎない。
例えば第3話、ビジネスホテルで深田が演じる蘭子と五郎が抱き合いそうになる場面がある。しかし五郎は「バカなこと言うんじゃないよ~」と言って、蘭子を落ち着かせる。この場面は五郎が劇中で言うとおりアニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』でルパンがヒロインのクラリスに言うセリフのモノマネなのだが、ここで熱くなりすぎないことで、ドラマ内の快適な温度が保たれるのだ。
仮に五郎を演じるのが藤原竜也や小栗旬だったら、暑苦しくて見ていられなかったと思う。逆に『リバースエッジ 大川端探偵社』で大根とタッグを組んだオダギリジョーなら、あまりにもクールでスタイリッシュになりすぎていただろう。
瑛太が大根作品に出るのは『まほろ駅前番外地』以来だが、あのドラマは便利屋を主人公にした脱力系の事件モノに見えて、実は熱い作品となっていた。『ハロー張りネズミ』もオシャレだが、人情ドラマとしての程よい熱もしっかりとある。この「程よい熱」を体現できる俳優と考えた時、瑛太以外には思いつかない。
おそらく瑛太の演技の温度がちょうどいいのは、役者として注目されたいというエゴが薄いからだろう。こういう俳優は作品全体のことを考えて演技をするので、共演俳優の力を引き出し、作品全体のレベルを底上げさせる。
そんな瑛太の縁の下の力持ちとしての姿が、依頼人のために走り回る七瀬五郎の姿とどこか重なるところが本作の面白さなのだ。
(成馬零一)