サイゾーウーマンカルチャーブックレビュー天才のそばには、恋愛関係じゃないパートナーがいた! カルチャー [サイジョの本棚] ジョブズとウォズニアック、ユングとフロイト……“相棒”との出会いで才能が花開いたペアの6段階 2017/06/10 16:00 サイジョの本棚 「結婚が正解じゃない時代」に結婚する意味 ■『誓います 結婚できない僕と彼氏が学んだ結婚の意味』(ダン・サヴェージ著、大沢章子訳、みすず書房) 『POWERS OF TWO~』では、主には恋愛・夫婦関係ではない2人組のエピソードが取り扱われていたが、一般的に、社会で最もメジャーな2人組は夫婦だ。本書『誓います 結婚できない僕と彼氏が学んだ結婚の意味』は、米国の男性カップルが、結婚に足踏みする日々をユーモアたっぷりにつづることで、「結婚とはなにか」をパートナーと考えることの楽しさを教えてくれるノンフィクションだ。 米国で人気新聞記者・コラムニストとして活躍する著者ダンと、10年間交際を続けている男性パートナー、テリーは、結婚という形をとらずに、6歳になる息子を育ててきた。しかし、周囲とは違う自分の家族に疑問を抱くようになった息子に、さまざまなタイプの家族を見せるため、ダンは自身の親族を集めたキャンプを企画する。 結婚・同棲はしないと決めている長兄とその恋人、子連れ同士で再婚した次兄夫婦、子どもはいるが結婚はしない妹夫婦。2度目の結婚生活を送っている母。家族の形態はさまざまだが、それぞれの違いにこだわらずに共同生活を送ることで、結婚/未婚/再婚、同性カップル/異性カップルの違いを問わず、いい家族とは助け合う共同体であり、“普通”と違ったとしてもコンプレックスを持つ必要はないということが、息子だけでなく読者にも説得力をもって伝わってくる。しかし、病を患っている母が、本気で自分たちの結婚を望んでいることを知ったダンは、テリーや息子と、結婚について少しずつ検討を始めようとする――。 「同性婚が法的に認められていない州に住んでいる」「息子は結婚に反対している」「誓いとか、披露宴などで見世物になりたくない」「そもそも10年間結婚せずに順調なのに、必要ないのでは」……と“結婚しなくていい理由”ばかりが次々と挙がり、「お互いの名前を入れたタトゥーの方がまだマシでは」とまで考えるダンとテリー。当初は結婚に積極的とはいえなかった2人は、それでも家族や友人、さらには人生相談のコラムニストにまで「セカンドオピニオン」を求め、結婚するべきかどうか検討を重ねる。結婚のメリットとデメリットを、毒を交えつつも真剣に語り合い、時にぶつかり合う2人を通して、読者は自分にとって結婚とはなにか、改めて考え直すことになるだろう。 2人の迷いは、異性カップルに通じるものもあれば、同性カップルだからこその迷いもある。けれども同性婚への理不尽な偏見や差別など、いくらでも深刻に語れる話題も、笑いを交えながら理性的に表現されることで、決して外国の特別なカップルの話ではなく、身近な1組のカップルの迷いとして受け止めることができる。 日本でも、結婚情報誌の最大手「ゼクシィ」(リクルート)が、「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」をキャッチコピーに選び共感を呼ぶ時代、「結婚=絶対的な正解」でないことは誰もが知っている。いつ結婚するか、そもそも結婚するのかしないのか、複数の選択肢が並べられているからこそ、正解がわからず迷ってしまうカップルは日本においても多いだろう。 ダンとテリーは、結婚について話し合ううちに、知らず知らず結婚することに気持ちが傾きつつも、失敗したときのリスクを天秤にかけて足踏みする。そんな2人を後押ししたのは、「人生はそもそも大きな賭けであり、みんないつかは死んでしまうのよ」というダンの母のすがすがしい言葉だった。結婚してもしなくてもリスクは負うし、選んだ道で幸せになれるかどうかは誰にもわからない。ただきっと、2人で悩み、深く話し合った分だけ、決断した道を正解にしていくスタミナが蓄えられていくのかもしれない。 (保田夏子) 前のページ12 最終更新:2017/06/10 16:00 関連記事 田中カツやキュリー夫人ら“偉人”のイメージに隠れた、人間臭い真の魅力に迫る理性的に生きてきた中年男女が、恋愛の業に翻弄される姿を描いた『マチネの終わりに』少年愛を描いた『風と木の詩』の裏にあった、竹宮惠子と萩尾望都の短くも濃い友愛重要なのは「血のつながり」じゃない。愛とエゴとコミュニケーションで成り立つ「家族」の醍醐味男・女らしさや恋愛のフォーマットから解き放たれることで得られる、生きやすさと強さ 次の記事 歌手として失敗したスター俳優たち >