[サイジョの本棚]

男・女らしさや恋愛のフォーマットから解き放たれることで得られる、生きやすさと強さ

2015/06/28 21:00

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!

■『女装して、一年間暮らしてみました。』(クリスチャン・ザイデル著、長谷川圭訳、サンマーク出版)

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 40代・既婚・異性愛者の著者が、ふとしたきっかけで女装にのめり込んだ1年間をつづったノンフィクション。TV番組や映画のプロデューサーとして活躍し、妻との関係も良好だった著者が、“初めてのストッキング”から始まり、ブラジャー、化粧、女子会、婦人科検診……とさまざまな経験を経て、女性観、そして男性観を変えていく日々がコミカルに描かれている。

 本書から伝わってくるのは、著者のように、社会から期待される「男性らしさ」に実直に応えようとするタイプの男性が、中年時に抱える“しんどさ”だ。仕事ができ、女性にもモテて、一見なんの問題も抱えていないような男性。まさにそんなタイプだった著者は、女装をすることで、今まで嫌っていたウインドーショッピングが大好きになったり、女性をあらゆる面でリード“しない”自分を許せるようになったり、これまで無意識に自身の「男らしくない」面を抑圧していたことに気づく。そして、周りからの「オカマ」「軟弱」という批判の声にシンプルに答える。「僕は好きな時に、好きなように、強くもなり、弱くもなりたいのだ」。

 「男らしさ」「女らしさ」は、1人の人間の中にどちらも備わっているもので、それをありのままに発揮するのは、心底楽しいことだ。そんなシンプルな主張を軽やかに実践してみせ、女装も男装もどちらも楽しめる著者の姿は、私たちの男性観・女性観も自由に拓いてくれる。


■『ボーイミーツガールの極端なもの』(山崎ナオコーラ、イースト・プレス)

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 「ぐんぐん伸びて、種子を残し、そして枯れ、子孫に未来を委ねる、という方法ではない、不思議な未来の作り方をする」という多肉植物。“王道のボーイミーツガール”ではない恋愛を、多肉植物に託して緩やかにつなげていく連作短編集が、『ボーイミーツガールの極端なもの』だ。

 年齢差のある恋愛、複数交際、同性愛、アイドルへの恋、プラトニックな愛。本作ではさまざまなタイプの恋愛が描かれるが、王道から外れているのは、そういったわかりやすいシチュエーションだけではない。好きになったら相手に伝えたいと思うのが自然なこと、告白されたらはっきり白黒つけるべき、男女は1対1で付き合って、浮気されたら怒ったり悲しまなければいけない――といった多くの人が無意識に持っている、「恋愛はこうあるのが正しい」という恋愛論の王道も、登場人物たちは逡巡なく崩していく。ごく自然に穏やかに“自分の恋愛”を追求する姿が、結果的に「極端な恋愛」に見えてしまうのだ。

 外から見れば少しくらいいびつな形に見えても、自分にとって自然な恋愛であればそれでいい。本作で描かれる恋愛は確かに、ゆっくりと成長して唯一無二のフォルムになる多肉植物に似た、不思議な魅力をたたえている。